トリニティ
――――静かに告げられた、それを聞き終えた、その後。
自分がどんな表情をしていたのか、自分では判らなかったけれど。
ただ、言葉を切ってネスティを見ていた彼女は、酷く柔らかな表情で笑った。
「・・・待ってるわね」
二人はそれぞれ何とも言えない表情で笑うと、席を立った。
パタン、と。
閉じられた扉を見送った後、ネスティはようやく無意識に詰めていたらしい息を吐き出した。
・・・あの子たちはずっと貴方が戻ってくるのを信じて、この樹の傍らに住んでいて、そして私たちも何度も様子を見に来てたんだけど。
ふ、と。
気付いたら、2人の姿がなくなってるの。
そして、決まっている所はいつも同じ。
あなたの側で、いつも。
あなたに、寄り添うように、いつも。
「――――安心するんだって、笑っていたわ」
・・・反則だ。
それとも、気付かなかった自分が悪いのか。
若干自嘲的な色のこもる息を付くと、彼は身体を起こした。まだ物の少ない部屋を見渡して、もう一つ、息を落とす。
彼女がいないと、何が何処にあるのかもさっぱりだ。このままでは迂闊で大雑把で一々手間の掛かる弟弟子と変わりない。
適当な服が見あたらなかった為、椅子にかけたままだったマグナの上着を手に、ネスティは部屋を後にした。
***
――――ネス
――――ネスティ
何度も繰り返す。
探すように、確かめるように、何度でも。
聞こえるはずのない、その響きから逃れるように、ネスティは顔を伏せた。
――――知っていたよ。
「…知ってるよ」
君たちの声はずっと聞こえていたから。
呼び声はずっと届いていたから。
――――幸せ、だった。
ひどく、幸せだった。
勝手な事だと、思うけれど。
繰り返し、名を呼ばれる。
君たちが僕を呼ぶ。
案ずるように。祈るように。静かに。
時に、嵐のような激しさで。
・・・本当は。
君たちに告げる事はないけれど、その声に包まれたまま、あのまま眠っていたかったんだと。
自分の名を、愛おしむように呼ぶ声を抱いたまま、目覚めなければいいと、そう思っていたのだと。
そう言ったら、どうするだろう?
悲しむだろうか。怒るだろうか。
それでも僕を、許すだろうか。
けれど、今は・・・。