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みとなんこ@紺
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トリニティ

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「・・・ス、ネスってば!」
強い声に呼ばれて、深く沈んでいた意識がひきずり戻される。
「ネス、どうかしたの?」
出てきても大丈夫?とその後続くが…肝心の声の主の姿がない。
「マグナ?」
何処だ?辺りを見回しても、降り注ぐ陽光を適度に遮る木々だけ。
「こっちだよ、ネス」
声は何処から聞こえる?
ふ、と。何か、既視感のようなものに囚われた気がして、とっさに振り仰いだのは無意識の事。
・・・以前もこんな事があった。
ずっと幼い頃。
ふと姿の見えなくなった小さな子供を捜して、派閥の敷地内の庭という庭を歩き回って。
「・・・君は」
呆れたように言葉がとぎれる。
探し疲れて、いい加減戻ろうかとしかけた時。…不安そうな、微かな声で名を呼ばれた事を、思い出した。
同じように何処からか声が聞こえて。同じように振り仰いだ先に、枝に茂る葉に隠れるようにして、こちらをそっと窺っている黒い瞳が。
「――――君はバカか?」
・・・何年経っても進歩がない。
大げさに溜め息を付いてやっても、今回はしょげた顔一つせずにマグナは笑った。
「今日は違うよ。アメル探してるトコだから」
…今度は降りられるんだろうな。
いつぞやの脱走劇の時は、高い所まで行き過ぎて降りられなくなっていた事もついでに思い出して、ネスティは訝しげにマグナを見上げた。
そんな事を思われているとは知らず、反動をつけて枝にぶら下がるとマグナは軽い身のこなしで地に降り立つ。
「この木、アメルのお気に入りなんだ。またここにいるのかと思って」
・・・そういえば、マグナがレムル村ではじめてアメルに会った時も、彼女は木の上にいたと言っていたな、と思い出して、ネスティは更に深く息を付いた。
どっちを向いても、と言うところか。
「…それで?」
「え?」
「アメルは見つかったのか?」
「あ、いや。まだ、だけど…」
やっぱり。
語尾が細くなり、合わせていた視線がつーと横に逸らされる。・・・何に気を取られたのかはしらないが、ミイラ取りがミイラになるところだったようだ。
やれやれ、と息を付くと、ネスティはこっちだ、と踵を返してマグナを促した。
「え、ネス?」
「客人をいつまでも放っておく訳にはいかないだろう」
「アメルが何処に行ったのか、知ってるの?」
疑いもせずに付いてくる足音を聞きながら、ネスは小さく答えた。

「・・・樹だよ」
確証があったわけじゃない。
ケイナから聞いた、それと。…もう一つ。
虚ろな流れの中で感じた、おぼろげな記憶。

光の翼を発現させ、幹に手を触れる。
流れ込んでくる、暖かくて、優しい光の力。
…たぶん、あれは、アメルだった。
ネスティの為、マグナの為、この世界の為。
捧げられるだけの祈りの力を、聖なる大樹に。

確証があったわけじゃない。
ただ、確信は、していた。

そうしてネスティに導かれるままやってきた大樹の下。
幹にもたれ掛かるようにして、目を閉じている小さな影。
「アメル」
微睡みの中にいただけだったのか、彼女はマグナの呼びかけに目を閉じたまま柔らかい笑みを浮かべた。
「・・・マグナが、またここで眠ってるんじゃないかって、思って」
気になって見に来たら、眠くなって、と。
ふわりふわりと、午睡に意識を攫われそうになりながら、アメルは途切れ途切れに答えた。
ふあ、と一つ大きく伸びをして何とか身体を起こす。
「…あ、ら?ネスティまで?」
ようやく頭がはっきりしてきたのか、苦笑を浮かべて見下ろしているネスティと目が合った途端、アメルは目を瞠った。
「フォルテと、ケイナが待ってる。…戻ろう?」
「え、お二人とも来てるんですか?いっけない!」
まだ全然お片付けしてないんですよ、と。慌ててアメルは立ち上がった。
「大丈夫だよ、アメル。ちょっとだけど片付けしたから」
「え!?」
「君がか!?」
「・・・なんでそんなに驚くんだよ、二人とも・・・」
「・・・いや・・・」
「え、あ、あははは♪」
二人とものあまりと言えばあまりな反応に、マグナはもーいいよ、とふて腐れて一人さっさと来た道を戻ってしまう。
その後を、ごめんなさい、と言いながらも笑いながら、アメルが追いかけていく。
さわり、と。二人分の熱が、傍らを過ぎっていった。


――――ああ。
「――――――。」

「え?」
「ネス?」
立ち止まったネスティが何か、小さく呟いた言葉を拾えずに、二人はそれぞれ足を止める。

「ありがとう」

今度は、聞こえるようにはっきりと。
彼は穏やかな笑みを浮かべたまま、眩しそうに目を細めた。
「僕をずっと、呼んでいてくれて」
…待っていてくれて。

二人は突然の言葉に、目を丸く見開くと互いに顔を見合わせて。


・・・笑って、手を差しのべた。


迷いなく、真っ直ぐに。

「お礼なんかいらないですよ、ネスティ」
「・・・もう一人で勝手に行かないって、約束してくれれば」

それだけで。




・・・おかえりなさい。
作品名:トリニティ 作家名:みとなんこ@紺