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歩んできた時間

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春の陽気にウトウトとしながら、縁側でポチくんを抱いて座っていた。
さっきまで良い天気なのだから今日は布団でも干そうかと思っていたのに、眠気にはどうも勝てない。
いっそこの心地よい誘惑に身を任せてしまおうかと思った時、「こんにちは。」と声が聞こえる。

はっと目を開け、前を見ると垣根にロシアさんの生首があった。

起きたてには衝撃的すぎるその映像に私はピシリと固まる。

「入っていい?」

ニヨニヨと笑うロシアさんの生首が言う。
どうやら垣根の向こう側から覗きこんでいたらしい。
通常は覗きこめないように垣根があるのだが、日本国民サイズの垣根ではロシアさんにはなんの障害にもならないようだ。
私は諦めたように「はい。」と答えた。

「元気だった?」
「ええ、はい。」
「この前の飲み会では突然居なくなっちゃうんだもん。いつ帰ったのかわからなかったよ。」
「それは、すみませんでした。」
この前…ホテルまでフランスさんに送っていただいた日だ。
そう思い出し、何故か私の胸がトクンと小さな音をたてた。

「よくよく見たらフランスくんも居なくってさ、まさか二人で帰ったのかと思って…。」
ロシアさんは微笑んだまま私を見た。
「フランスくんが店に戻ってくるのがあと1分遅かったら、誤ってフランスくんを呪い殺しちゃうとこだったよ。」
サラリとそう言った。
どうやらフランスさんはあの日『鷹の眼』に加え『大魔神』にも狙われていらっしゃったようだ。
「ホテルまで送っていただいたのです。」
「ふぅん。」
素直にそうお答えしたのに、ロシアさんは適当に頷いただけだった。

「それよりさ、僕、今すごく気になってることがあるんだけど。」
突然そうおっしゃり、私は首をかしげた。
「気になってること?」
「うん。」

ロシアさんはそう言ったきり、口を噤まれてしまった。
私は困惑した、ロシアさんらしくない歯切れの悪さだ。
「あの、どうかされました?」
「日本くんは・・・。」
「・・・。」
「・・・・。」
「・・・。」
「・・・・・。」
やはりロシアさんは何かを言いたそうで、でも止めている。
少しして、気を取り直したようにロシアさんが口を開いた。

「日本くん、君の名前は何?」

全くもって意味がわからない。

「・・・日本です。」
「僕を馬鹿にしてるの?」
その言葉、そっくりそのままお返ししたい。
私はため息を吐いた。

「私は日本以外の何者でもありませんよ、南セントレアでも無ければロシアでもありません。」
「そんなことはわかってるよ。君は日本であって南セントレアじゃないし、『ロシア』っていうのは君の未来の名前だから今は違う。」
相変わらず勝手なことをおっしゃる方だ。最近ではこの方との付き合い方もわかるようにはなってきたのに、今日はどうにも埒が明かない。

「イヴァン。」
唐突にロシアさんが言った。
「え?」
「僕の名前だよ。」
「はぁ…。」
「だから君の名前。」
ああ、そういうことか。私は理解すると同時に一気に疲れた。
そういうことを聞いてるのなら、もう少しわかりやすく言ってくれれば良いのに。

「キク、です。」
「え?」
「キク・ホンダ、です。」
「キク…。」
呟くロシアさんの表情が思ったよりも幼く、微笑ましかった。

「ご満足いただけましたか?」

私がそうロシアさんに尋ねたところで、玄関からドアが叩かれる音がした。
私は返事をして、立とうとしたがロシアさんに腕をとられる。
「出なくて良いよ。」
「え?」
「出なくて良い。」
「そういうわけにもいきません。」
「出ちゃダメ。」
「ロシアさん、困ります。」
玄関のドアは間を置きながらも再度叩かれる。

「イヴァンさん、離して下さい。」

一瞬怯んだように緩んだ手から自分の腕を引き抜き、玄関のドアを開けると、

「やぁ。ご機嫌麗しゅう、日本。」

フランスさんが微笑んでいた。

作品名:歩んできた時間 作家名:阿古屋珠