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歩んできた時間

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ドイツさんとイタリアくんと居ることは、心地が良かった。
イタリアくんはひたすら愛しいと思うし、ドイツさんはいつも私を思ってくださる。
そのぬるま湯につかったまま、甘い夢を見続けたいと、そう思っていた私がいけなかったのだろうか。

「ドイツだって男だよ。」

思えばその日、フランスさんはすでにアルコールのにおいがしていた気がする。
フランスさん自身の甘い香水の香りで消されていたけれど、僅かに。

「キクちゃんは優しいけど残酷だね。」

アメリカさんはその内に秘めるものが怖い。
ロシアさんにはいつだって気が抜けない。
中国さんにはいつも負い目を感じ、イギリスさんの優しさを疑う自分が醜いと思っていた。

そして何より、その距離感が掴めないフランスさんに脅威を感じていたのは事実だ。

だから彼らには近づきたくなかった。
ドイツさんに守られて、イタリアくんに癒されて、毎日が穏やかな日常。

それは、春の霞のように脆い日常。



久しぶりの会議が終わり首を曲げるとポキポキと骨が鳴るのがわかる。
この間風邪をひいたせいか、まだ本調子じゃなく妙に体がだるい。

今日は早く帰って寝よう、と、そう思った矢先だった。
「キクちゃん。」
振りかえると、フランスさんがいつものように人好きする笑みを浮かべ、手をあげてこっちへ向かってくる。
「お疲れ。」
「お疲れ様です。」

「もう帰るのかい?」
「ええ。今から帰らないと、帰れなくなってしまいますから。」
今回の会議はフランスさんちで行われたため、自宅までは時間がかかる。
「良かったら、泊ってくかい?」
「え?」
にっこりと、フランスさんは続ける。
「真面目なキクちゃんのことだから、明日までの書類とか溜めたりしてないでしょう?」

いつもなら「そのお気持ちだけで。」と断っていたはずだと思う。
否、断ることはいくらでも出来た。

ドイツさんは急用で途中でお帰りになり、イタリアくんはお兄さんのロマーノくんの所へ行くのだと、会議が終わると同時に嬉しそうに走って出て行った。
もちろん彼らが居なければフランスさんのお誘いを断れないほど私は彼らに依存しているわけではない。

けれど、その時廊下に私とフランスさんしかいなかったのは何の悪戯だったのだろうか。

「…お言葉に甘えてもよろしいですか?」

その言葉に表情こそ崩さなかったものの、フランスさんが内心驚いていることはすぐにわかった。

その日なぜ私がフランスさんのお誘いに乗ったのか、実を言うと今でもわからない。
私自身、ただたんに早く休みたかったのか、フランスさんちの食事やワインに惹かれたのか、ナニも無く過ごせるだろうと安易に思っていたのか…
むしろ、私とフランスさんのこの曖昧な距離感をハッキリさせてしまいたかったのか…。



「適当なところに座って。」
そう言われ、ソファに腰掛ける。
随分と高級なソファだったのか、思いのほか自分の体が沈み驚いた。
「ワインで良いかな?」
美味しい食事を御馳走になった後、食休みをしてまた美味しいワイン。
こんな贅沢をして罰が当らないだろうかと、無駄に不安になる。
「あの、お構いなく。」
「俺だけ飲むわけにいかないでしょ?付き合ってよ。」
こういう断りにくい誘い方が本当にお上手だ。
私は黙ってワイングラスを受け取る。

「ねぇ、キクちゃん。」
「はい。」
「ドイツが好き?」

それは唐突だった。

「それは、もちろん。毎回お世話になってますし…。」
「そうじゃないよ。わかってるでしょ?」
フランスさんの笑みがいつもと変わらない。
それなのにはぐらかすことは許さないと、視線が私を責める。

「・・・。」
「ドイツだって男だよ。」

「あの男が守りたいのは、キクちゃんじゃなくて、キクちゃんの貞操だよ。」

ぼんやりとした意識の中で、わかる。
ああ、私は馬鹿にされているのだ。

ドイツさんは、そんな打算的な人じゃない。
そのお心に何を思うかまではわからずとも、あの方の優しさは何よりも信頼できる。
フランスさんごときにそのように指摘され、ドイツさんを疑うほど私達の絆は甘くない。

「不愉快です。」
思い切り顔を歪めて言ったはずなのにフランスさんは笑みを変えない。
「そう?」
その態度がまた気に食わなくて、こんなに御馳走になっていて悪いと思いながらも帰らせて貰おうと思った。
立ちあがろうとして、足に上手く力が入らないことに気がつく。

「?」
ぐっと力を入れると、僅かに腰が上がるが、またソファに沈んでしまう。
フランスさんを見ると、ここで初めて少し笑みを消してすまなそうにした。
「ごめんね。」

「もう、駄目なんだ。我慢が効かないんだよ。…ロシアは相変わらず睨みをきかせてくるし、イギリスの野郎もいつもキクちゃんを見る。中国だってキクちゃんの信頼を得ていて、ドイツは相変わらずキクちゃんを我が物顔で守ってる。・・・アメリカはよくわからないな。俺のこの感情や今のこの出来ごとだってもしかしたらアメリカの予想範囲内なのかもね。…でも、もう良いよ。」

何が良いのかわからない。
気がつくと、体中の力が抜けて、支えられなくなった体はズルリとソファに横倒しになりズブズブと沈んでいく。
見上げるようにフランスさんに焦点を合わせると、

「キクちゃんは優しいけど残酷だね。」

と、呟かれた。

作品名:歩んできた時間 作家名:阿古屋珠