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榊@スパークG51b
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いつものこと、なのだけど、

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もちろん、そのことで彼が同じくらい苦しんでいるのを知っていた、から、そんなことは口に出して言ったりしなかったけれど。
アメリカが訊くとやはりドイツはすこし間をおいて、少しだけ苦笑して、そうだな、とても安定している、と言った。
(…いいな、)
アメリカは思った。
彼が、同じように自分のことを羨んでいるなんてこと、アメリカは知らない。
そっか、と返事して、それきり黙った。
それに、ドイツがでもそれでも、独立したんだろうと言うのに黙ってこくりと頷いた。
…もう、何度目だろうこのやりとりは。
(成長、しないなあ、)
アメリカは情けなくなって呟いた。『イギリス、』と無意識に出るそれさえ彼のことで、少し泣きたくなった。ぎゅ、といつからか繋いでいた手をドイツが少し強く、握った。あーあ、涙が出る。
「すきな、だけなんだけどなあ、」
「…全く同意だ、」
はぁっ、と、二人してため息をついた。
頭の裏でそれを嫌そうな顔が窘める(おいこらアメリカ、そんな陰気臭いカオすんな!せっかくのティータイムが台無しだろうが!)(うるさいよイギリス、俺の頭の中でまで説教しないでくれ!)(っていうかやめてくれよ!紅茶臭くなるだろう!)
頭の中でイギリスがそれにぎゃあぎゃあ言っている。本人と、直接話したのはいつだっただろう。もう思い出せなくて、悲しくなった。会うたびに説教はされるけれど、ちゃんと話したことなんて最近まるでない。
(やっぱり俺が、欧州じゃないから、なのかな、)
それはアメリカのコンプレックスだった。もうずっと、ずっと昔から。
だから『兄』と上手くいかなくて、ケンカしてひとりになっちゃったのかな、
隣の彼が羨ましかった。アメリカは。
『ドイツ』はずっとプロイセンと一緒で、プロイセンはもう『ドイツ』と絶対、離れないんだ。
『だから』彼が思い悩んで少し弱って、自分のところにふらふらとやってくるのを、アメリカは知っていた。『そんな』彼に頼りにされていることにほんの少しだけの優越感を。
彼はともだち、だった。『アメリカ』には数少ない。
っていうかさ、大きくなりすぎたんだよ俺、ぼやくと横でうんうんと頷く、ムキムキがいる。
(――だ。彼もまた、大きくなりすぎて悲しい思いをした、仲間だった)
っていうかさ、早く、大人になりすぎたんだよね、
こくこくと、ムキムキが頷いてそのたび心が軽くなった。
そのせいで、にんげんの子どもならゆっくりするはずのサヨナラが、一瞬だった。
(俺は『イギリス』に銃を向けて、ドイツは『兄さん』を呑み込んで)
(…おれたち、ちょっと似てるね、)
まったくだ、とドイツが言った。
それは早く大きくなりすぎた、への相槌のはずなのに、なんだか心のなかで言ったそれに同意されたようでアメリカは嬉しかった。
「…俺の『兄さん』はすごかったんだぞ、」
「何を言う。凄さなら俺の兄さんが一番だ」
「なんだよ、」
「なんだ、」
唐突に、始まって唐突に終わる言い合い。
「イギリスなんてね、すごいヤンキーだったんだから」
「プロイセンなんて欧州の暴れん坊だったんだぞ」
「ふん、イギリス海軍に勝るものはないね」
「ふん、ほざけ海洋国家がプロイセンの陸戦を見ろ」
「なんだよ!ちょっと陸地が広いからって!そんなんで近所と戦ってばっかりだから兄貴しかいなくなるんだぞ!」
「黙れ、そんなんで海の向こうに植民地ばっかり作ってたからお前みたいにフラフラしたふざけた弟ができたんだろうが!」
「なんだとう?!」
「なんだ、やるか?!」
「やらないよ!俺はトクベツだったんだから!」
「奇遇だな!俺だって特別だったんだ!」
声を張り上げて、モヤモヤをどっかにやっちゃおう、とかそういう、テスト、
でもほんとだよ。俺、トクベツだったんだ。
言うだけ言ってにらみ合って、それからお互いにやっと笑った。
「…知ってるよ、United States of "America"」
「…俺だって知ってるよ、Bundesrepublik Deutschland」
ドイツの言葉にくしゃりと顔を歪めてアメリカが言った。
二人とも、噛みついたのに赦されて大人になった。
「イギリスは昔っから甘いんだ。もっと、本気になれば俺なんかひとひねりだったのに」
「兄さんは、昔っから本当に俺のため、俺のためってばかりなんだ、なのに俺が言うとだから『俺のためだ』って言ってるだろ、なんて言う…」
馬鹿だ。
なんて馬鹿。
どうせ自分のものだって言ってくれるなら、ずっと、ずっと君臨していてほしかったのに。
隣り合って、お互い思い描くのはかつての、支配国の顔で、
「…兄離れって、どうやってするのかなあ、」
「マニュアルがなくてな…」
「しないとキスしてくれないんだよ」
「しないと信じてくれないんだ」
「は?なにそれキミもしかしてまさかもう済かい?!」
「は?何の話だ?キス?お前まさか、」
顔を見合わせて信じられないと言う顔をしてポカンとした。
「え、ちょ、ま、ドイ、えぇええ?!」
「は?ま、まてアメ、いや、ちょ、な、なんだと…?!」
「済?!済みなのかいキミ!ちょっと!ねえ!それなんて抜け駆け!!」
「ば、馬鹿者そんな大声で言うんじゃないそれに抜け駆けでも何でもないあれは兄さんが…っ/////」
がばり!と向き直ったアメリカがドイツの肩をつかんでぐらぐらと揺らした。
酷いじゃないかひとりだけ!ズルイ!ズルイんだぞ!!
言われていやだから俺のせいではないと、と真っ赤になったドイツが言い募るのを無視してアメリカはずるいずるいと連呼した。抜け駆けだぞ!ずるい!俺も…!なんてよくわからないことを。
ドイツは困惑した顔をして、けれどそれでも尚アメリカが言い募ると酷く困ったような顔になって、それからちゅっとアメリカの頬に口を付けた。
「じゃあこれでいいだろう?お裾分けだ。これで我慢しろ」
さすがに口は嫌だとドイツが本当になんだか嫌そうな顔で言う。
自分の頬についたやわらかな慣れない感触に、むうとなってアメリカは黙った。(これよりももっと、薄い唇の感触を己は、憶えている)(アメリカは思い出して、思い出したからドイツを許してやろうと思った)(それに免じてだ)(でも抜け駆けだ、ずるいんだぞ!)(これは暫くちくちく言ってやろうと思う)アメリカはふん、とまた鼻を鳴らして、まあ別にね、いいんだけどね!と言った。はいはい、とドイツ。
「ほら立て、じゃあココアをおごってやるから」
「えー、やだシェイクにバーガーがいい」
「却下だお前はもう充分今日の必要摂取カロリーを超過している」
「ちぇーっ、ケチ!」
「ケチで結構。ほら、行かないのか?」
「行く!行くよ、もう!」
アメリカはイギリスが好きだった。
兄弟としてだ。
今も好き。
今度は兄弟として、だけでなく。
先に歩きだした彼と違ってアメリカにはかつての『兄』との繋がりがもう、なかった。
なのにまだ自分を『弟』扱いする彼を、どうやったらロウラクできるのか。
アメリカは、行った先の店でドイツに聞いてみようかと思った。
(ねえキミのお兄ちゃん、なんて言ってキミにキス したんだい?)
さすがにたちの悪い質問だろうか。
けれどアメリカも少し、じりじりとしていた。