いつものこと、なのだけど、
ただねもう一度、言ってもらいたいだけなんだ、
(俺のちいさな って)
7歩先で先を行くドイツがアメリカを呼んだ。
アメリカは立ち上がって、今行く、と足を踏み出した。
アメリカはだから尋ねてみた。
でもじゃあ何故、そんな浮かない顔をしているのかと。
すると驚いたような顔をしたドイツが言った。
俺は、そんな顔をしているか?と。
?ドイツの場合
公園を出たところにあった、店に入ってココアを頼んだ。
なんとなく、そこで飲む気がしなくてテイクアウトのそれを持ってまた同じ、ベンチへ。
戻るまでにあった売店でドイツがマシュマロの袋を買った。
アメリカはグミの袋を買って、べりっと開けて手を突っ込む。
また二人して並んで、座って、
どうでもいいことを喋った。
今日出た昼の付け合わせのインゲン、あれ最悪だったね、とか、最近のウチの上司、知ってるかい?すっごく若いんだよ、とか、
言うのにドイツは黙っていて、ねえキミちょっと返事ぐらいしてくれよとアメリカが言うと、ああ、すまない、と『それ』に返事した。
「まったく、キミは本当に兄さんが好きだな」
アメリカが呆れるのにドイツは至極真面目な顔で返事する。ああ、お蔭さまでな、と。
「もう!皮肉だよ!もうちょっと悪びれたり申し訳なくなったりしなよ!」
「生憎と、それだけは否定する気のない事実なのでな。喜んで受け取ろうその言葉」
「なんだよ、じゃあ俺にも言ってくれよ俺だって言われたいんだぞ」
「まったく、お前ときたらとんだ兄好きだな。呆れてものも言えない」
「ひどっ…酷いんだぞ!どうしてそこでSなんだい、どうしてそこでSが出るんだいキミは!!俺が言ったみたいに言ってくれよ俺はMじゃないから嬉しくもなんともないんだぞ!」
「……全く、お前の兄好きは相当なものだな」
「ははははは、まあね!」
「………」
「な、なんだいその目は!」
「…別に」
「別にって顔じゃないだろうそれは?!もう!」
騒がしく、言う彼にドイツはくつりと喉で笑って取り合わなかった。
ドイツはアメリカが、羨ましかった。
「お前は素直だな」
だから、憎まれもするが愛される。
自分にはない、愛らしさだ。悪く言えば歯に衣着せぬ、だが、よく言えばそれは天真爛漫だった。無邪気とは違うが、それはドイツのよく知る弱虫のヘタレによく似ていた。
羨ましいと思う。
彼はその素直さで、相手にぶつかって行けるのだろう。
自分に嘘をつかず、素直に。
自分だって決して嘘をついるわけではないのに素直に、甘えられない部分が彼のそれを羨ませた。
は?とアメリカが何を言うお前という顔をしてこちらを、見ていた。
ドイツは笑って、いや、何でもないと言った。そんな顔をするなとマシュマロをひとつ摘まんでやると怪訝そうな顔をしながらもぱくりとそれを、口に入れた。
(なんだか、餌付けしてるみたいだな、)
アメリカはよく食べる。
ぺろりと大抵のものをすべて平らげるものだから、見ていてとても気持ちいい。
(兄さんみたいだ)
もう飽食の、時代であるというのにいつだって食欲は欠食児童みたいな己の兄を思い出す。
そろそろ夕飯の時間だな。
少し離れたところにある大時計を見てドイツはポケット携帯を、ズボンの上からそろりと押さえた。
…鳴らない。
自分が遅くなると言えば理由も聞かず『いいぞ』と返事を寄越す兄に少しの寂しさを抱いていた。
『遅くなるなよ』と言われたから、だからこんなに、だらだらとどうでもいいようなことを喋って公園に留まっているのに…
隣をみるとアメリカが、己を見てひょいと肩をすくめた。
「…まあ、そんなところだ」
「はー…、ほんっとにね、」
そこで区切られた、言葉の続きは聞かなくてもよく、わかっていた。
「お前はどうなんだ?」
「ん?」
「ホテル。部屋が近かっただろう?」
夕食の約束のひとつでもないのかと問えば、そんなものがあるなら今こんなとこにいないよと大きな、ため息。
けれどイギリスは外の店に出ず、会議の時はホテルのメインダイニングで食事を摂るのが常だ。お前も行けばいいのでは、と言うと、行って何になるのさ、やあイギリス、奇遇だね君と同じ考えだったなんて自分にガッカリするよ、一人なのかい?相変わらず友達のいない淋しいヤツだな!ハハハ、安心しなよ俺が一緒に食べてあげるからさ!とでも言えと?アメリカが、やけに具体的な返事をする。
ああ、これはやったことがあるな…とドイツは思った。
アメリカは正直だ。自分に嘘がつけない。
素直なのになあ、ドイツは苦笑して、そうだなそれでもそれで何だかんだ一緒に食事してくれる相手なら、そう言ってでも誘う価値はあるな、と言った。アメリカはぐ、と言葉に詰まって、でも、と言った。
「でも、今日は他のヤツと約束してるかもしれないじゃないか…」
「フランスとか?」
「だって隣に座ってた」
「スペインがその隣にいたと思うが」
スペインの、この兄弟嫌いは公式ではないがまあ目に見えてわかるくらいは有名である。それを示すように言うがアメリカはぷうと頬を膨らませて、俺はホントにアレされてるけど、イギリスに対してはどうだか、と言う。
ドイツは苦笑した。この弟は、本当に、
「お前は本当にイギリスが好きなんだな、」
恋は盲目とは、言ったものだ。
明らかに自分より兄の方が嫌われていると言うのに。くすくすと、ドイツが笑うとアメリカはますます膨れて、その言い方をさっきするべきだったんだと言った。ドイツが今度は肯定しないのか?と聞くと、ああもちろん俺はものすごくイギリスが好きだけどね!と大声で言った。やけっぱちのように大きな声であったからほんの少し向こうを歩いていた人がビクリとこちらを見て決まりが悪かった。馬鹿者、と、窘める。けれどアメリカは悪びれもせず、生憎と、それだけは否定する気のない事実だからね、喜んで肯定するよその言葉!と言った。(こ、の…、)(ドイツは苦笑した)
「…では帰るか、大好きな兄の所へ、」
もう6時だ。
3時半には終わった会議がとんだ寄り道だ。
「ん、おなかも空いたしね、」
さっきあれほど食べたと言うのにもうそんなことを言って、アメリカが立ちあがる。己もよしと立ち上がると後ろから声がした。
まったく、遅えよ結論がよ、
ビクッ、と、まったく感知しなかった方向からの声にドイツが硬直した。
っていうかそういうのは本人の目の前で言えよどうしてお前は俺の前だと可愛くねえことばっかり言いやがるんだ、
ビクゥッとどうしてその声がするのかという声にアメリカが固まった。
ざぁっと、血の気の引く音、それからかぁあああっとそれがすごい勢いで顔に戻って、くる音、
「イ、イイイイイイ、」
「に、にいさ…、っ、」
「おうなんだ」
「なに固まってんだよコラ、」
目の前に、やってきた二人にドイツとアメリカはあわあわと混乱して思わず手を取り合った。イイイイ、と名前を呼んでもらえない金髪とに、にいさ…っ、と呼ばれたそれよりうすい、色をした髪の目つきの鋭い方がじとおっとその手を、見る。二人は慌ててその手を離してそれぞれ言った。
作品名:いつものこと、なのだけど、 作家名:榊@スパークG51b