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ヴァルナの娘

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「アムロを助けろ。何としてもアムロの命を助けるのだ。その為にならこの足の1本位、犬にでもくれてやる!!」
手負いの獣そのものの総帥の視線が、周囲の者達の体を強張らせた。
「しかしながら、総帥。この艦の設備では高度な手術は無理です。スウィート・ウォーターの総合病院の様な所でなくては…。総帥のおみ足ですらも固定と二次感染を防ぐ程度にしか出来ていないのですから…」
中佐は苦しそうに現状を告げた。
「ならば至急スウィート・ウォーターに帰還せよ。それまでは何としてもアムロの命を保たせるのだ!」
シャアはそう命令すると、ようやくその体をベッドに預けた。

体力的にも限界だったのだ。

それでも視線はアムロから離さない。
離したらその瞬間にアムロが手の届かない所に逝ってしまうように感じて目を離せないのだ。
医師達は総帥の命令に極力副えるようにと最善の策をアムロとシャアに施した。
                                      2006 09 21




 スウィート・ウォーター最大の病院
その特別室に二人の患者がその傷付いた体を休めていた。

 一人は既にリハビリを開始していたが、もう一人の意識は未だに戻っていない。

 「シャアの叛乱」と言われる戦いから、2ヶ月が経過していた。
ネオ・ジオンと地球連邦は互いに痛み分けの様な型となり、スウィート・ウォーターの独立は事実上認められた。アムロの生死は、ν‐ガンダムの残骸が発見された事から戦死扱いで受理され、地球圏で発表されていた。

 片方に杖を突きながらも執務に戻っていたシャアであったが、目覚めないアムロに不安と苛立ちを募らせていた。
シャアは時間の許す限りアムロの傍に居て様子を伺っていた。しかし、頭部の治療の為に短く切られた髪が初対面の時と同じ長さにまで伸びているのに何の変化も無い事に我慢が出来なくなり、ついにシャアはアムロの体に触れてみた。

そっと指を頬に当てる。

さらりと滑る様な肌目の細かさとうぶ毛に気付き、手のひら全体を押し当ててみる。
暖かさは伝わってくるものの、思念波は伝わってこない。
出会ってから最後の戦いまで、常にアムロのアムロたる部分をどれだけの距離を隔ててもシャアに感じさせてくれていた思念波が感じられない。

『まさか、脳死状態・・・・・・?』

最悪のケースがシャアの脳裏を駆け巡った。

『いや、呼吸も心拍もあるのだ。脳死ではない。ならば、何故目覚めないのだ、アムロ』
不安に胸中を埋め尽くされ、荒れ狂う感情の行き場が見つからない。
両手でアムロの頬を挟み、額同士を押し当てた瞬間、放電現象が起きた様な衝撃が襲い、シャアの意識はアムロの中に吸い込まれた。

 特別室から出てこない総帥を心配して、無礼を承知で扉を開けたギュネイが目にしたのは、ベッドサイドに腰を下ろした姿勢で上体をアムロの上に伏せて意識を失ったシャアの姿だった。


 真っ白な世界を、シャアはひたすらに歩き続けていた。

自分の周りは白い色のみで何も見えない。

それでも立ち止まる気にはなれず、シャアは黙々と足を進めていた。

 どれ位歩き続けたのか。
体が(精神体の存在と分かってはいるが・・・)疲労を感じ始めた頃、目の前に何かの像が見えてきた。その影に向かって歩みを少し速める。どうやら十字架の様なものだと認識できる。

『何故、こんな所に・・・』

更に歩みを速めて近づくと、その十字架に架けられているのはアムロだった。

『なっ!!』

シャアは走り出した。
十字架に近づくにつれて、その情景の異様さに心臓が引き絞られる。

アムロの体を十字架の様に張り付けているのは、人の手。救済を求めるかの様にアムロの体を捕らえ、縋り付き、離そうとしない無数の腕。その腕達によってアムロは動く事も出来ないのか、俯いたまま目を閉ざしている。

シャアは瞬時に激昂した。
我武者羅にアムロに絡みつく腕を引き剥がす。
「アムロを離せ!!離すんだ!!離せっ!!」
それだけを叫びながら、片っ端から払いのける。
そうしてようやくアムロの細腰に手が届き強く抱き締めるシャアを、払いのけられた腕達が絡みついてきて引き剥がそうとする。アムロに絡んでいた他の腕も、シャアをアムロから離そうと蠢きだす。

脳裏に響くのは、無数の腕達が発する念の様な声。

『渡さぬ!救いの女神、癒しの乙女は我々のもの!渡さぬ!渡しはせぬ!!』
「アムロは私のものだ!私だけのものだ!!貴様らごとき幽鬼になど渡しはしない!!」
シャアの動きを阻もうと、無数の腕はアムロを離れシャアに襲い掛かり引き倒した。

白いノーマルスーツの姿のアムロが、ふわりと白い闇の中を漂いだす。
紅茶色の長い巻き毛がゆらりと広がる。
その様を目の端に留めながらも、シャアの全身は押え付けられ、息すら出来なくなってきた。
肉体は無いはずなのに息苦しく、意識が途切れそうになった。
その瞬間

「お止めなさい。貴方達の本当の癒しは、私の元に縋る事ではありません。さあ、門を開けますから、光の元へ赴きなさい」
優しく諭す様な声が空間に響いた。

シャアを組み敷いていた腕達が、ゆっくりと力を抜き、体から離れだす。
頭上に、白い闇を切り開いて光が差し込む箇所が出現した。

「天使の階段・・・」

シャアは思わず呟いていた。
光に向けて、琥珀に煌めく瞳を開いたアムロが指をさし示している。

『ヴァルキューレ・・・』
腕達がざわめく様に呟く。

「今世での貴方達の戦いは終わった。安らぎの時を得る為には、魂のプールに戻らないと・・・。そして来世では幸福な時が送れます様に」と謡う様に囁いた。

 素直に光の玉となって上る者も居れば、怯えた様に惑う腕も居た。そんな腕にアムロが優しく手を添えて押し上げると、光の玉になってユラリユラリと昇って行く様になる。
そして白い闇に居た無数の腕は、総てが光の門の中に入って行った。
その様子をじっと見つめ続けるアムロの横顔を、シャアは無心に見続けていた。

 門が閉じて、ようやくアムロの視線はシャアに向けられた。
困惑した様な恥ずかしそうな複雑な表情を浮かべると、アムロはシャアの傍まで移動してきた。

「貴方、何故ここに居るの?」
『開口一番がそれなのかね?!』とシャアは力が抜けそうになった。

「君がいつまで経っても目覚めないので心配していたら、ここまで引き込まれたのだよ。君こそ私の心配を他所に、ここで何をしていたのかね」
「サイコフレームの共振が、宙で死んで彷徨っていた人達を引き込んでしまったの。あの人達は、行くべき場所を見失って困っていた。だから私に縋り付くしか出来なかった」
「そんな連中など、払い除けてしまえば良いではないか。行くべき場所は己で見つけさせれば・・・」
「私にもあの人達の想いが判るから、何とかしてあげたかった。抱き締めて慰めて心が満たされれば、行くべき場所が見つかると思っていたのだけれど、想いの丈が強すぎて身動きが出来なくなってしまったの。でも、貴方が来てくれたおかげで皆も旅立つ事が出来た。ありがとう」
ニッコリと微笑まれ、シャアの胸がトクンッと鳴る。
作品名:ヴァルナの娘 作家名:まお