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ヴァルナの娘

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苦笑しながら問うと「はい。でも何回折っても上手く飛ばせないんです」と照れ臭そうに小鼻を擦る。その仕草は、WB時代に行動を共にしたカイを思い出させた。

「あのね、折り方にコツがあるの」と前置きをすると、少年は喜色を満面に表して「教えてもらえませんか」とにじり寄ってきた。
「もちろん!!こう見えても私、こういった事が得意なんだ」
アムロはそう答えると、新しい紙を希望した。
少年は、少しだけ待っていて下さい、と松葉杖を突いているのに跳ねる様に病棟へ戻っていった。
ものの数分で帰ってきた少年の後ろに、子供の数が増えていた。

 中庭のベンチの周りで、即席の紙飛行機教室が開かれた。
アムロの教えに従って子供達が紙を折っていくと、今までとは比べ物にならない程、美しく紙飛行機は飛んだ。微調整もしてあげると、子供達の紙飛行機は長い時間空中を泳ぐ様に飛び、どの子供も歓声を上げて喜んだ。中庭の騒ぎにNs達が顔を出すが、子供達の明るい笑い顔につられて、皆笑い合って1時間程を過ごした。

 「また教えてね」と、少年達が手を振って病室へ戻るのを、アムロもベンチから手を振って送った。
子供達が居なくなると、たちまち静寂が中庭を支配した。

「年甲斐も無くはしゃいじゃったら、少し疲れたなぁ」と、ベンチに体を預けてフゥーと息を吐き出した時、よく知った気配が自分の後ろに立ったのを感じると同時に、バラの香りが鼻腔を擽った。
アムロは振り向きもせず、「何?シャア」と声をかけた。

「はしゃぎすぎだな。それでもアムロのあんな笑顔が見れて、私は嬉しかったよ」

 シャアは低く響く声で答えると、上半身を折り曲げてアムロの肩を背中から回した腕で抱え込んだ。
アムロの目の前には真紅と紅茶色のバラの花束が差し出された。
バラの香りを胸いっぱいに吸い込むと、アムロは「綺麗だね」とポツリと言った。

「気に入ってくれたかね。良かった。久々に顔を見るのに何を渡そうかと考えたのだが、この花と一緒に君に告げておきたい事がある」

「その前に、貴方に尋ねておきたい事がある」
アムロが胸の前に回された前腕に手をかけながら問いかけた。
「何だね?私に答えられる事なら何でも答えよう」
シャアは真摯に答えた。
「私という存在は世間ではどうなっているのさ?」
「君は戦死扱いになっている。君を助け出した後、νを破壊して船外廃棄にしたからな。MSの残骸が発見されれば、乗員の遺体が無くても死亡と認証される。私は君を二度と連邦のような腐敗した組織に帰す気は無い!君の存在価値が判らない連中に預けておけるものか!!君はこのネオ・ジオンにこそ相応しい」
「なら名前はどうするつもり?アムロ・レイによって親族を殺された人は、このネオ・ジオンに沢山居るはずでしょう?その方々に何と言って釈明をするつもり?」
「君は、私の母アストライアの名の一部を捩って、ライア・レイと名乗ってもらう。そして私の伴侶となり、ネオ・ジオンを支える片翼として傍に居て欲しい。私の希望はそれだけだ。そして、私が告げようとした事も」
それだけを一気に告げると、シャアはアムロを抱える腕に力を込めて、頭をアムロの肩口に押し付けた。

 これだけ密着していると、アムロにとってシャアの想いは手に取るように分かる。

シャアは唯ひたすらにアムロを求めている。

ニュータイプだからではなく『アムロ』だから欲しているのが分かる。

こうなってはもう逃げる事は出来ない。
アムロも腹を括る事にした。
それでも釘を刺す事は忘れない。

「私を手に入れた事で、色々と波風が立つと思うし、さっきも言った遺族達にとっては『仇』なんだから、何時狙われるか分からないよ?それでも良い?」
「君の命は私が守る。どれだけの障害があろうとも、それを跳ね除けるだけの力は持っているし、君が居てくれるのならその力は無尽蔵になる。大丈夫だ」
「そう。貴方にそこまでの覚悟があるのなら、もう何も言わない。でも、守られるばかりは嫌!私も自分の出来る事でネオ・ジオンに貢献したい。一緒により良い世界を創りましょう」

そう言うと、アムロは肩口に置かれたシャアの頭を優しく撫ぜた。
驚いて顔を上げるシャアに、アムロは後ろを振り返ると眉間の古傷に唇を押し当てた。
神聖な儀式の様に…。

光を反射して、アムロの瞳は琥珀に煌いており、シャアは息を呑んだ。
聖なる存在を目にした様に感じる。
そしてシャアはアムロの前に回りこみ、片膝を折りアムロの両手を掬い上げて捧げ持つと、手の甲に恭しく口付けた。
中世の騎士が姫君に忠誠を誓う様に…。


この日。ネオ・ジオンはヴァルナの娘を手に入れた。
スペースノイドの生活技術の向上と快適さは、この日から始まる事となる。

                                      2006 09 30

*ヴァルナとは、インドで『宇宙の護法者』とよばれる神である。



子守唄聞かせて



「アムロはまたドックに入り浸りか?!」

執務室の主は呆れ三割不満七割の声を、副官であるナナイにかけた。

「はい。作業用のMSのバージョンアップについて整備士達と白熱した話し合いをしているそうです。先頃は、コロニーの天候調節用の基盤やらソーラーパネルの調節やらにかかりっきりだったとか・・・。ライア様の御蔭で過ごし易くなったと住民は大いに喜んでおります」
「私は嬉しくない!!活躍の場を与えた途端、糸の切れた凧の様に私の元に帰ってこない。私達は恋人同士になったはずなんだぞ。何故アムロは私の元に居てくれないのかね」
 
 完全に拗ねている。そういえば、決済のスピードも下降の一途になってきている。

このままでは不味い。

優秀な補佐官たるナナイは、現状打開の必要性を感じた。


 アムロがシャアの想いを受け入れて、ネオ・ジオンの新たなる住人『ライア』となって半年。

 技術畑のアムロは、その分野で引く手数多の存在となっていた。
専門知識に精通し、意外な発想を打ち出して改善策を立案してゆくのだから、技術屋達はアムロを一時たりとも離そうとしない。アムロ自身も、そうした話し合いや機械いじりが大好きなので、何も苦とは感じていないのだ。さしずめ、水を得た魚、いや人魚だろう。
現場に泊まり込む事に違和感は微塵も感じず、住居として宛がわれたマンションに明りが灯る事など、この半年で両手の指にも満たない。

シャアとはメールのやり取りをしてはいるが、互いに忙しい身ゆえ、生身で会う事は無く、通信回線越しでの対面となる。その時も業務的な話で終わってしまい、甘さはまるで無いのだが、アムロは何ら不満を感じてはいなかった。
哀れなのは、お預けを食らった犬の様なシャアであろう。

 殊、恋愛に関して、シャアはロマンチストでアムロは徹底した朴念仁であった。
そんなアムロの元に、意外な人からのメールが届いた。

『折り入って相談したい事がある。今度の週末に時間を空けてもらえまいか』

そう申し込んできたのはナナイだった。
アムロは仲間になっている技術屋達に、週末の不在を告げた。
皆不満そうな表情をしたが、総帥副官からの呼び出しと聞いては拒否も出来ず、渋々納得をした。
作品名:ヴァルナの娘 作家名:まお