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ヴァルナの娘

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 週末、待ち合わせ場所のカフェにアムロは少し遅れてきた。
既にナナイは待っており、カプチーノとクッキーがテーブルに陣取っていた。

「ごめんなさい、遅くなって・・・。今、調節中のMSの設計図をいじっていたら出るのが遅くなってしまって」
慌てて走ってきたのだろう。アムロは息を弾ませて額にうっすらと汗をかいていた。

「いえ。私もつい先刻到着したばかりですので、お気遣いなく」
そう宥めるナナイだが、嘘である事をアムロは気付いていた。カプチーノのカップからは湯気が立ってはいなかったのだから・・・。

「本当にごめんなさい。で、相談事って何かしら。時間がかかる様なら場所を移動した方が良いと思うのだけれど・・・」
水を持ってきたウェイトレスに拒辞の姿勢を示しかけたアムロだが、ナナイはアイスコーヒーを持ってきてくれる様に注文すると、一先ず腰を掛ける様に奨めた。
アイスコーヒーが来るまで、体調をたずねたりしたが、「調子は良好。時々夢中になって食事や睡眠を忘れちゃうけど、それは昔からの事だから・・・」とアムロは屈託の無い笑顔を見せた。女性相手の会話の為か、常より女らしいしゃべり方である。

「ライア様の御蔭でコロニーの生活環境が格段に良くなったと評判です。お忙しそうですね」
「ナナイさん。『様』はつけないでライアでいいわ。私は貴女の上司ではなく、一技術者に過ぎないんだから・・・」
運ばれてきたアイスコーヒーに口をつけながら、アムロは困った様に笑って小首を傾げた。
肩に付く位まで伸びた髪が、動きに合わせてクルンと踊り、素直で誤魔化す事が不得手な澄んだ瞳が、真っ直ぐにナナイを見つめる。
話題を持っていくのにちょうど良い流れをアムロが作った事を幸いと、ナナイは今日、相談したかった事柄を口にした。

「いいえ。貴女は『ライア様』とお呼びするべきなのです」
ナナイの毅然とした口調に、アムロが眉を寄せた。

「何故?私は貴女と出来たら友達になりたいと思っているのに、どうしてそんなに畏まった態度をされるの?もしかして、私の事、不愉快に感じてる?嫌い?私、引き篭もりがちな性格だったから、人との付き合い方が下手だし・・・」
アムロは寂しそうな表情をすると、俯いてしまった。
傷つけてしまったのだろうかとナナイが慌てる。

「いえ、そう言う訳ではありません。私は立場上、総帥の副官です。ライア様もいずれは私の上司となられる方です。今からそうお呼びする事に、些かの躊躇いもございません」
「だから、何故私が貴女の上司になんてなるの?なる訳無いじゃない」

心底意外といった表情をして目を瞬くアムロに、あ〜〜、全く分かってないんだこの方、と妙に納得してしまったナナイだった。
アムロに気付かれない様に溜息をつくと「場所を変えましょう」とナナイは伝票を手に席を立った。




 ナナイの運転するエレカは、総帥府へ向かった。

 復興活動が盛んなネオ・ジオンでは、決済しなければならない書類が山の様にあり、この日もシャアは執務室で書類の整理をしていた。
十分な広さのある机の上に、書類の山が二つ。
一方は決済が終了したもの。他方は未決済のものだった。
休日という事もあり、シャアはワイシャツにスラックスという比較的ラフなスタイルで、常には後ろに撫で付けている金髪を自然な形で顔の横に流していた。額にも髪がかかり、5〜6歳は若く見える。
開け放した窓からは、レースのカーテンを揺らして風が入ってきて、細い金糸を揺らしていた。

 未決済の山があと半分位になった時、シャアの意識に何かが引っかかった。
心躍る様なその気配に、書類から顔を上げる。
と、同時に扉がノックされ、応えを待たずにナナイが入室してきた。

「どうした、ナナイ。今日は君も休日のはずだが・・・?」
少しだけ目を見張ってシャアはナナイに問うた。

「はい。確かに私の予定は、休みとなっておりました。しかし、ネオ・ジオンの存亡の危機を憂いて、活動をいたしておりました」
厳しい表情でナナイがそう答えると、シャアの表情が険しいものになる。

「何だと?!そんな重大な事態が起きているなど、今まで私は報告を受けていない。どういう事だ!!」
シャアは椅子から立ち上がり、ナナイの傍まで数歩で近付く。
事態を重大と捉えながら慌てる素振りも無い落ち着いた足運びである。

「はい。このままでいきますと、統治に大きな障害となりうる事です。私もつい先刻確認したばかりの事柄で、如何したものかと総帥のご指示を賜りたく、無礼を承知で参った次第です」
「報告しろ!!」

シャアはナナイを応接用のソファーに座らせる様にして、自分は向かい合う椅子に腰を下ろした。

「では、その事態の元凶である者を連行いたしております。お目通りは構いませんでしょうか?」
「何?構わん!連れて来い!!」
シャアは腕を組むと、鋭い視線を入り口に向けた。

「入って?」とナナイが罪人に対して話すには優しすぎる声をかけたのに驚いたが、入ってきた人物にシャアは椅子から飛び上がらんばかりになった。

「ア・・・アムロ?君が・・・?何故?」
混乱をきたしたシャアは、立ち上がったきり動きを止めてしまった。

アムロのほうも何が何やら分からないといった表情で入り口からソロソロとナナイの傍へ寄っていく。
視線はシャアとナナイを交互に行き来しており、説明を求める様だった。

ナナイはアムロの腕を掴むと、自分の隣に座らせた。
アムロの座るのを見て、シャアがガクンと力が抜けた様に腰を落とす。

「君は、ネオ・ジオンで楽しそうに活躍をしていたのではないのか?何が不満でこのコロニーの存亡を危うくする様な事を・・・」
信じられない者を見る様な視線を向けながら、シャアはアムロに問いかけた。

問われたアムロの方が答えに窮する。
自分は何もしていないのに、何故そんな事になっているのか。
言葉が喉に詰まってしまって答えられない。

その状態を間違った方向に捉えたシャアの表情が、怒りに変わりだす。
「君は私が憎いのか?!だからそんな企てを行っていたのか!信頼させておいて裏切るのか!!」
言葉がきつさを増してゆき、放たれるプレッシャーが身を斬る様に感じられて、アムロはようやく悲鳴の様な声を発した。

「知らない!!私は何もしていないし、貴方を裏切る様な行動はしていない。何故そんな風に言われているのか、私が知りたい位だ!!」
悲しげな波動がシャアを打った。

口では嘘がつけても、思念波は偽れない。
その事を知っているシャアはナナイに視線を向けた。

「どういう事だ?!ナナイ!!」
ナナイはシャアとアムロの二人の視線を受けて苦笑を浮かべた。
「どうぞ、お二人とも落ち着かれて下さい。私は真実を申し上げているにすぎません」
「ナナイさん??」
アムロは首を振るとナナイの手を握った。
「私、何もしていない。本当に何もしてはいない。技術仲間と開発の話をして、少しでも快適な住環境が作れるならと活動はしているけど・・・。それが間違っていたと・・・?」

鳶色の瞳が理不尽な訴えに潤む。
その表情を見たシャアは、堪りかねてアムロをナナイから引き離し、自分の腕に抱え込んだ。
作品名:ヴァルナの娘 作家名:まお