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闘神は水影をたどる

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5.取引




 サルガン・ラシフロウは公明正大が服を着て歩いているようだと名高い。
 しかし彼女自身はそれ以上に、臨機応変を座右の銘としていた。そうでなければフェリドの副官を務められないともいえる。
 やんちゃなフェリドの手綱を掴んでいるのは副官である彼女だ、と囁く者もいた。確かに幼少期からずっと一緒に剣を振るってきた間柄で、そう言われる所以もわからなくはなかったが、必要以上にそこを持ち上げて憚らない相手にたいして、いささか骨が折れているのも事実だった。
 いままさに、そうであった。
「私などが申すのもどうかと思われるかも知れませんが、最近の海兵長殿の行動は目に余るものがございます」
「フェリド殿の自由な振る舞いが許されるのもサルガン殿あってのものでしょう」
「リグド殿とそっくり同じ血が流れているとは、なかなか」
「昨今の軍内の乱れも、とは申しませんが。海兵長が海兵長だからこそ、若い者が羽目を外しやすい風潮が生まれつつあります。昇任式典でサルガン殿が一個艦長になられれば、私たちにとってこれほど心強いものはありません」
 サルガンは頷いた。
「貴殿らの意見は、下からの声として私が責任をもって閣下に伝える」
「いえ、それは……」
「ではなんだと言うのだ」
 厳しい口調で問いただした。怒りを灯した目に鋭く射抜かれ、サルガンを取り巻いていた二等兵たちは黙って道を空けた。サルガンは白い外套の裾を翻し、靴底を回廊の床に打ちつけてその場を去った。
 苛立ちが激しいのは、フェリドを侮辱されたからではない。とうとうここまで来たかという焦燥が、彼女の胸の内を焼いていた。
 最近のフェリドの行動は行き過ぎているとサルガンも感じていた。
 昨晩のリグドの弁のとおり、現行の一個艦長たちはいまのフェリドの素行を案じている。
 命令無視、その推奨ともとれる発言。任務放棄、独断実行。しかし剣の実力は鬼神に値する。
 三等以下の、とくに若い海兵はフェリドの曇りない強さを純粋に崇拝している。しかし、上等兵は違う。面だってサルガン支持に回ってくる者はこれまでにもいたが、二等が口を出してきたのは初めてだった。フェリドは、上層が空洞化しかけた氷山の頂点に立とうとしている。
 昇任式典でスカルド総督から一個艦長の任命を受けるのは、下馬評ではフェリドが七、サルガンが三。
 ひっくり返るようなことはないと思いつつも、誰よりフェリドの胸の内をおもんばかってきたサルガンは、『もはや事態がひっくり返るようなことはない』と知っていた。
 サルガンは眉間を揉みしだきながら兵舎を出た。
作品名:闘神は水影をたどる 作家名:めっこ