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闘神は水影をたどる

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 わが道を行くフェリドに、サルガンは靴音も高らかに続いた。
 それまでに訴えた異議はすべて無視されている。
 返事のかわりに、歩きながらぽいぽいと脱いでいくフェリドの着物を押しつけられていた。
 突然現れて服を脱ぐ海兵長と、追随するサルガンの形相に海兵たちが気圧されたおかげで、歩を妨げられることなく埠頭の端まで進み出たフェリドは、最後の仕上げとばかり、履いていた編み上げ靴をサルガンに差し出した。差し出されたほうは日に焼けて色の薄くなった唇を歪めて、それを押し返す。
「副官としてお聞きする。何をするつもりだ?」
「海賊船一隻だ。俺がちょっと泳いでいって引き連れてくれば済む」
「なりません」
「場所は岩礁だぜ。軍船で行ったって逃げられるがオチさ」
「そりゃ貴方はそれが出来るでしょうが、下に示しがつきません」
「あんな小舟にいちいち艦一隻でも動かすほうが示しがつかんと思うが」
「次期一個艦長候補であり、王の嫡子たるフェリド・イーガンの示しがつきません」
 フェリドは裸の腿をぱんと鳴らした。
「その程度でつかなくなる示しなら、最初から無いも同然だ」
「それは、そうですね」
 サルガンはそれまでの剣幕をあっさりと引っ込め、鉛のような溜め息を吐いた。
 太陽の下、フェリドの小麦色の肌に覆われた筋肉はよく締まり、強靱なバネを感じさせた。美しさにこだわった華奢な宝剣ではない、敵を屠るための両手剣を握る手の甲に浮き出したすじと骨が、多少のことでは得物を手放さぬ豪傑ぶりを刻み込んでいる。伸びっぱなしの黒髪も、頬から顎にかけて浮いた無精髭も、およそ王族としての威厳とはほど遠い。それでも、人を食ったような笑みを浮かべるまもなく齢十八になろうという青年は、オベル海軍総督、海洋大国オベルの王である父親譲りの剛胆さと、ともすると無骨ともいえる風貌の中にある、亡き王妃譲りの知性に満ちた瞳で国民に慕われている。
 しかしながら現在、フェリドの竹馬の友、また副官であるサルガン・ラシフロウの目の前にいる全国民の信用たり得る男は、その彼女に下穿き以外の全ての着物を押しつけ、邸の女中たちが見たらいろいろな意味で卒倒するだろうあられもない恰好で、準備運動を始めていた。
 彼女が軍服を着ていなければ海に蹴り落としていたに違いない。
 サルガンは眼前で動かされる尻を目障りとばかり、ぴしゃり、と打った。
作品名:闘神は水影をたどる 作家名:めっこ