人災パレード
『情報処理班、了解。処理終了後はどうしますか?』
「ゼルの携帯通信機宛に暗号処理してから転送して〜。終わったら他の優先度高い処理お願いね〜」
『了解しました。通信を終了します』
セルフィの予想では数分以内に処理結果が出る事だろう。
後はこちらからゼルと連携して工作を進めるのみだ。
「セフィ、お疲れ様〜」
「ありがとアーヴィン、でもまだこれからやで〜」
と、少し和みかけたところで端末から小さな電子音が響き始めた。
連絡回線を開いて欲しいという要請の電子音だ。
アーヴァインが端末を操作して許可コードを打ち込むと、さっそく動き出したらしいゼルの声がノイズ混じりに聞こえてきた。
『こちら工作班、とりあえず線路沿いに進んでるところだぜ。地形迷彩車に工作に必要な物資も積んで走ってる』
「こちらセルフィ、了解〜。今、最速でポイント割り出しとるで〜。暗号処理して転送するんで解読キー先に送っとくわ〜」
『お、来た来た。これブチ込んで解読すりゃいいんだろ? …っと、さっそく情報処理班からポイント情報が転送されてきたぜ。俺たちが今走ってるとっから 30分くらい進んだとこだな。リノア通過予想時間を考えっと、あんま余裕ないぜ…」
セルフィの予想通り、バラム・ガーデンの優秀な情報処理班は最速で処理を終わらせてくれたようだ。
指揮官室のメイン端末にもその情報が転送されてくる。
地形図の上に路線図、工作予定ポイントを表す白い光点とゼルたちの現在位置を表す青い光点、そしてリノアが乗っている列車位置を表す真っ赤な光点。
赤い光がいかにも不吉だ。
『一旦回線切るぜ。工作ポイントに着いて任務完了したらもっかい報告入れっから』
「こちらアーヴァイン、了解したよ〜。通信終了」
ぷち、と回線が切れる。
最初の報告によるリノア到着予想時刻まですでに残り1時間半程度といったところだ。
ゼル率いる工作班がおよそ30分後に工作ポイントに到達し、時間稼ぎのための工作を行う。
それによってどの程度の時間を稼げるのかはさすがに予測しにくい。
列車の乗務員の数や人力にもよるだろうし、リノアの事だ。
一般客にまで線路の復旧作業を手伝わせかねない。
少なく見積もって20分、多く見積もっても絶対に1時間以上はかけさせないと思われる。
「サイファー、キスティス、早く帰ってきてくれ〜」
「スコールはんちょ〜」
リノアにスコールを与えれば万事解決するというのが仲間内での永遠の不文律となりかけている。
スコールには不本意極まりないところだろうが。
「うち、リノアの癇癪でまたネットワーク回線にサンダガかけられるのは勘弁やで〜」
その滅茶苦茶にされた回線の復旧作業の責任者になったのは他ならぬセルフィであり。
「僕だってリノアに狩り尽くされた訓練場のモンスター補充で駆り出されるのはもうゴメンだよ〜」
というわけだ。
スコールが最大の被害者というのは明かな事実だが、他のメンバーとて大なり小なり面倒に巻き込まれている。
だからこそ、こうしてガーデン総出で動き回っているのだ。
工作班からの連絡を待つ間にも各班からは忙しなく報告が入ってくる。
『救護班より報告。遅くなりましたが必要物資の運搬及び配置、人員の配置と待機を完了しました』
『護衛班より報告します。護衛班以外のSeeDは全員が帰還完了。各班に組み込まれ待機中。生徒たちや非戦闘員たちの様子に異変はありません。引き続き警戒態勢のまま待機します』
一つ一つの報告に了解を返し、必要があればアーヴァインが指示を出す。
たった一人の女性のために何でここまで慌ただしくならなきゃならないんだ、などと思ってはいけない。
だってリノアだし。
あらゆる意味で魔女なリノアが来るんだし。
しかもスコールいないし!
と、二人の思考が少しばかり現実から逃避しかかったところで緊急報告の甲高い声がスピーカーから飛び出した。
『情報処理班より緊急報告! 諜報班と連携を取りながら目標位置を捕捉し続けていたのですが、先程から列車の移動スピードが上がっている事が確認されました。このままではガーデン到達予想時刻は正午よりも20分は前になる見込みです』
報告を聞くや否や、アーヴァインはゼルに向かって回線を開いた。
情報処理班に了解と返す余裕すらない。
セルフィは即座に端末に取り付いてリノアの移動速度数値を修正した処理結果を画面に映し出し、そして蒼白になった。
予測で行くと青い光点と赤い光点とが……ぶつかる。
アーヴァインもそれを見ながらゼルに向かって叫んだ。
「こちらアーヴァイン! 緊急だ、聞いてくれゼル! リノアの移動速度が上がった! ゼルたちのスピードだと下手するとリノアとかち合っちゃうよ〜!」
『ンな!? マジかよ!! おい、スピード上げろ! 今はステルス機能に回してるエネルギーも全て速度に回せ! 揺れるからみんな適当に身体固定しとけよ!』
「今からどれだけゼルたちの移動時間を短縮出来る?」
『……5分が限界だ。今から工作作業準備に入る。ポイントに着いたらすぐに作業に入れるようにはしておくんだが…』
「ゼル、うちやけど聞いてや。リノアの移動速度とゼルたちの工作時間を考えて試算してみたんやけどね〜。工作ポイントからガーデンに帰還するのは車にステルス機能があっても危険やっちゅうのがわかったわ〜。せやからゼルたち工作班は工作ポイントから離れて物陰でリノア通過を待つんがいいと思うのね〜」
ゼルに伝えながらもセルフィの手は端末の上を忙しなく動き回っている。
画面では工作ポイント付近の地形図が拡大され、ポリゴンがゆっくりと回転を始めた。
「え〜っと、今転送したポイントの地形なんて隠れるのに良さげやと思うんやけど〜」
『工作ポイントから北に2kmってとこか…。全力で北に向かって逃げたいとこだけど下手に動くとリノアに察知されてメテオでも喰らいそうだしな。わかった、工作完了後はそこで待機しとくぜ! この距離なら偽装して索敵機出しておけばリノア側の様子も窺えるだろ』
「くれぐれも気を付けてくれよ〜」
「そうやで〜」
『おう、俺も死にたかねぇよ! そいじゃ、準備もあるし一旦切るぜ』
「了解」
ゼル側との通信を終えた二人は放置状態だった情報処理班に了解した旨を伝え、工作班の位置追尾を続ける旨の指示とリノアの乗っている列車のスピードについて、予測外の変化を見逃さないようにとの指示を出した。
椅子の背もたれにぐったりと背を預けてセルフィがぼやく。
「さっすがリノアやわ〜…心臓にわる〜…」
「サイファー、ホント頼むよ〜。リノアがガーデンに着く前にスコールを連れ戻してきてくれ〜」
祈るように手を組み合わせてアーヴァインもぼやいた。
心臓に悪いというか何というか。
リノアの乗っている列車が移動スピードを上げたという、あの報告。
そこから想像するに、スコールに早く会いたくてたまらなかったリノアがそれこそ乗務員を脅しでもしたのだろう。
そうでなければ、普通はああいった公共交通機関は時刻表通りに駅を通過するよう走るわけで。
時刻表より遅くなる事は通常時でもよくある事だが、予定時刻よりも20分は早く着くだって?
誰をどう脅したのかは知りたくもないが、改めて言おう。
リノア、恐るべし。