SSやオフ再録
行事:ルックの日(ルック・湊)
「ねぇねぇ、今日ってルッくんの日だって?」
向こうからにこやかな笑みを浮かべた英雄様がゆったりと歩いてきた。ルックは鬱陶しそうな表情を隠しもせずに聞いた。
「……は?何それ。ていうか呼ばれてもないのに何しに来るんだよ毎回毎回!」
「えーそこはホラ、湊に会いに?」
「なんで疑問形なんだよっ……ていうか人のものに勝手に会いにこないでくれる?」
「やだっ!ルッきゅんたら湊をモノ扱い!?さすがルックの日とかにされちゃうだけあるよね?」
詩遠がニッコリと笑いかけてくる。
……コノヤロウ、と思っていると、そこに通りかかったシーナが加わった。
「ああ、そいやルックの日だってな!まったく妙な語呂合わせだよな、マジうけるし!」
「だよねぇ」
「……?どういう意味さ?」
「「え?だって69の日だろ?」」
いぶかしげに聞くルックに、かの英雄と放蕩息子は息ぴったりに、にこやかに答えてきた。
は……?と顔をしかめたルックであったが、次の瞬間には一瞬だけ赤くなり、その後、水どころか空気をも瞬時に凍らせそうな勢いの冷たい表情になった。と思うと何やら呪文を詠唱し始める。
「ちょ、いきなりそれはないよね“静かなる湖”ー」
すると詩遠が焦った風もなく、魔法使用不可になる水の紋章魔法を使ってきた。
「っち……」
「ち、じゃねんだよ、何いきなり魔法唱えてんだよ、なんか異世界のもん呼びだそうとしてただろ!冗談通じねーなオイ!」
土の魔法詠唱をしそこねたシーナが焦ったようにルックに突っ込む。
「うるさいんだよバカっ……!ほんっとバカじゃないの!?ちょ、ほんと消えてくれない?ていうかマジ消えろ」
「て、どしたのー?ルック?」
不意に頭上から声がした。
「あ、やほー、湊」
「わー詩遠さん!来てくれてたんですねー。で?皆で何楽しそうに話してたの?」
湊がニコニコと、階段を使わずにそのまま上から降ってきた。
「楽しそうな訳ないだろっって……また……。階段使いなよ……」
「えーだってめんどくさいんだもん。いーじゃん、別にルックの大事な石板になんかしてる訳じゃないんだしさー」
呆れたように指摘するルックに、湊がむぅ、と言い返した。
「いや、なんていうか、まぁそりゃ大事だけど、そういう事じゃなくてっ……」
「ルックってばうるさいー。そんな事より、何の話してたの?」
「……そんな事……」
そんな事扱いされてなにげにへこんでいるルックをしり目に、詩遠が良い笑顔で答える。
「ああ。今日はね、ルックの日、らしいよ?」
「ルックの、日?え、なんで?えっと、ルック、誕生日、な、の?」
「違う」
「ルッくん即答だね。いやー名前から?ほら、今日の日付って、6月9日でしょ?で、ルック。語呂合わせみたいなものかな?」
「ああ!なるほどぉ!じゃあ素敵な日じゃないルック!なんで怒ってたの?」
「……怒ってたの、知ってるのに“楽しそう”、だ、と?まったく君って……。なんでもない」
「えー?何でもなくないでしょ?教えてよ!」
「あーだっって69の日……」
そこに言いかけたシーナへ、ルックはラスボスをも視線だけで殺せそうな勢いで睨んできた。
「っと、なんでも、ない」
「えー、シーナまで!ケチ!何なの?69の日って!更に分かんないっ!」
「俺だって命が惜しいからな!まあアレだ、ルックに実地で教えてもらっグフッ……」
3ターンは経過していたようだ。聞こえない程の小さな呟きで切り裂きが飛ばされていたみたいである。シーナがいきなり飛ばされていた。
そしてそんな光景を、詩遠は途中から傍観者になることで楽しんでいるらしかった。
「って、ことがあったよねぇぇぇぇぇ!!」
「……何……いきなり……」
次の計画を、と考え事をしていたルックの前に、湊がやってきて徐に昔の話をしてきた。
「え?だって今日6月9日じゃん。ルックの日!」
「……なんで今更思いだすわけ……?」
「あの時はホントずっと気になってんたんだからね!ルックは教えてくれないしー!シーナに聞いてもルックに実地で教えてもらえ、しか言わないし!詩遠さんは未だに楽しそうにニコニコするだけだしさぁぁぁ!」
「……じゃあもう、諦めなよ……」
「ヤだ。だからね、知ってそうなアルベルトに聞いたの」
「ふーん………………っブホォォォォッ」
「ちょ、ルック汚いなー!飲み物飛ばしちゃだめじゃん!」
「……失礼」
ルックはハンカチで口をぬぐいながら湊を見た。
「なんで……」
「え?ああ。だってさーユーバーに聞いてもなんとなくろくでもないような事しか言わなさそうじゃん?セラとアルベルト悩んだんだけど、ここはやっぱ、軍師でなんでも知ってそうな、ね?」
ね、じゃねぇし!
ルックは内心戦々恐々としていた。
ホントこの子、何してくれてんのぉぉぉ?
あいつに聞いた、だって?ある意味ほんと怖いものしらずだな!
ていうかアルベルトがそんな質問にまともに答えるとは思えないが……
ルックが唖然と湊を見ていると、ニッコリと笑顔を返された。
「舐め合うんでしょ!?」
「っ……あんの赤髪ぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!」
「?なんで怒ってんの?ルック疲れてる?だったら疲れにも丁度いいよ!やろう!」
「っはいぃぃぃぃぃい!?」
ルックが口をパクパクさせている中、湊は相変わらずニッコリとして近づいてきた。
「ルックぅ!もっとちゃんと舐めてよ!」
「……」
「っもうっ!なんでそんなやる気ないの!?」
「……湊……これは、何……」
ルックが憮然とした様子で聞いた。湊は首を傾げる。
「え?何って……キャンディだけど?なんで?」
「いや……。えっと……僕は甘いもの、そんな食べられないから……。ていうか、アルベルトはなんて答えた訳……?」
「ふぉ?ああ、“お互い舐め合うんですよ……キャンディを”って。珍しくニッコリ笑って教えてくれたよ?」
……アルベルト……お前……絶対わざとだろ!
ルックの脳裏に澄ました無表情な顔が過る。
「どうしたの?ルック?……まあ、いいや。ねぇ……?」
「?」
「僕、もうキャンディ舐めるの疲れちゃった。だって美味しいけど反応ないんだもの」
「は?」
「今度は……同じ棒でももっと反応あるもの、舐めたいなぁー!」
そう言って湊は妖しく笑ってルックに手を伸ばしてきた。
こ、この天然がっ……!
分かってないくせに何核心ついてきてんだよっ……!
ルックはまたもや口をぱくぱくとさせ……る前に湊に喰いつかれるようなキスをされた。