SSやオフ再録
無題:月(坊主)
(注:珍しく仄暗い系です)
坊=朔 2主=イザヤ
明日には祝賀会が開かれるという夜。
外を見ればほぼ満月の明るい夜だった。
イザヤはその月明かりの差しこむ自室でベッドに座り、ぼんやりと生気のない目で佇んでいた。
ずっと前に進んできた。
どうする事も出来ず、ただ戦うのみだった。
そうして気づけば親友は敵になり、自分は人殺しとなり。
そしてナナミはその戦いの中死んだ。
それでも前に進めば、待っていたのは親友の死だった。
この地の平和の為なんて綺麗事だった。
イザヤはただ、昔のように、あの楽しかった幸せだった、あの頃に戻れる事だけを願っていたというのに。
「悩み事かい?」
「マクドールさん……?どうして、こ、こに……?」
声がして、ゆっくり振り向けば、窓に朔が立っていた。月明かりのせいでシルエットしか見えない。
戦時中、力を貸してくれていた人。
そしてイザヤが密かに憧れていた人。
ただ、朔はハイランドが落ちた時以来、姿を見せていなかった。内心、傍にいて欲しいと切望していたイザヤだが、口に出せるはずもなく。そして姿を見せなくなってしまい、更に心のよりどころが一つ消えてしまっていたところだった。
「多分、今が一番、君が……。……ねえ、イザヤ」
「……はい」
「君の名前、イザヨイ、からきてるんだよね……?確か十六夜と本当は書くところを、君のおじいさんはカタカナにしたんだったよね?」
「?え、え……そうでしたが」
十六夜という名前だけしかあたえられず気づけば身寄りのない孤児だったイザヤを、拾って育ててくれたゲンカク。
そのゲンカクに、「イザヤ」と改名された話を、そういえば前に朔に話したのを、ふとイザヤは思い出した。
「ねえ……。聞いた時は何も言わなかったけれども、ね……?ゲンカクがなぜそうしたか分かる?」
相変わらずシルエットしか見えない朔が聞いてくる。
先ほどから一体……?と思いつつ、イザヤは首をふった。
「いえ……」
「ふふ。今日はイザヤの月だよ……知っていたかい?」
するとそう言って策は窓の横に立ち、手を外の月に掲げた。
そうする事でようやく朔の顔が見えた。いつ見ても中性的で美しい顔立ち。その表情はいつも甘く優しげであった。だがなぜか今の朔の横顔は、どこか狂気めいてみえた。
「僕の、月……?」
そんな朔に、すこしぞくり、としながらも、イザヤは首を傾げる。
「そう、君の月……。満月の次。これから欠けていくのを待っている月。きっとゲンカクは君にはふさわしくないとでも思ったんだろうね……。僕はとても好きだけれどもね?」
そして朔はイザヤに近づいてきた。
「そして、欠けていくのを、本当に待っていたのは僕だけどね……?」
「え?」
「どれほど、早く君が僕のところまで堕ちてくれば良いと思ったか……」
「……マクドー……ル、さ……ん?」
唖然としているイザヤの頬を、朔はそっと撫でると、いきなりそのままベッドにイザヤを押し倒した。
「僕を頼りにしていた……?僕に憧れていた……?……残念だね、イザヤ……。僕がなぜ協力したと……?……僕はね?この国も、そして君の仲間も、君の姉さんも親友も、どうだっていいんだよ……」
「っ?」
「ああ、でもこいつに餌が沢山やれたのは感謝するよ……。後は本当にどうだっていい。いや、そうではないな……。むしろ皆が君を残していったのにも感謝しなくては、な……」
イザヤは相変わらず唖然と目の前の美しい顔を見続けた。
あの甘い笑顔は、いまはただ、冷たい妖しげな笑みへと変わっている。
「いったい、な、にを……」
「戦争がひどくなり、周りがどんどん君を置いて逝ってしまうのを、僕はゾクゾクとしながら見ていたよ……。君が、表面では相変わらず笑顔の君の内面がどんどん蝕まれていっているのを、僕は傍で堪能していた」
「……!」
つぅ、とイザヤの目じりから、一筋の涙が零れ落ちた。
「さあ、十六夜。そしてこれから、もっと果てしなく底へ、堕ちていこうか……」
「っ!?やっ……」
ずっと憧れていた。
ずっと頼りにし、そして心の支えとなる人として焦がれていた。
「や、だぁ!!」
いつだって強かった朔。イザヤがいくら抵抗しても敵うはずなんてなかった。
そして、ずっと前を向こうと必死であった
イザヤの、
心の最後の
線が、
切れた。