SSやオフ再録
日常:掣肘(ヒオウ・ヒナタ)
「お前、どんなの持ってんだよ」
「そういうお前こそ」
兵士が何やらこそこそと見せ合っている。
通りかかったヒオウはけげんに思い、そっと気配を消して背後から覗き込んだ。
写真。
どうやら最近アダリーが発明した、その場の光景を紙に写し取る機械で撮ったものらしい。でもあれって、1つしかなくて上層部で保管されてたと思うんだけど。
そう思いつつ写真を覗き込む。ヒオウが気配を消しているというのもあるが、兵士2人は写真に夢中でまったく気づく様子もない。
「・・・。」
ヒナタが部屋の窓辺に座り、ぼんやり外を眺めている。
ヒナタがとてつもなく幸せそうな顔をして肉まんに頬張りついている。
・・・そして、ヒナタがベッドの上に座り、眠そうな目を猫のようにこすっている。
「・・・何を、しているのかなあ・・・?」
おだやかな話し方とは裏腹に低い迫力を感じさせる声に、兵士たちは恐る恐る振り返る。
そこにはニッコリと微笑んだ、魔王の姿が。
「ひっ。」
「すっすみませんっ。」
この顔も戦闘もピカイチである英雄殿が、盟主様を溺愛していることは一般兵の間でも知らない者はいなかった。
そして普段温厚でさえあるこの人物が、ヒナタの事に関しては下手をすると魔王降臨となることも。
もうそれこそ飛び出して逃げかねない兵士に動くなと態度で示す英雄。
「で?これらはどうしたの?」
「えっと、そ、そのっ」
恐怖にすくむ兵士から何とか聞きだしたところによると、闇ルートで手に入れたとのこと。
「ナナミちゃん・・・」
闇ルート・・・間違いなくナナミの仕業だろう(「俘虜」参照)。
とりあえずきちんと彼らはお金を出してそれらを購入している訳である。さすがにそれを没収する訳もいかず、とりあえずは放免するヒオウ。
ただし下手にそんなもの買ってると後は知らないよ的な黒い笑顔で送り出したが。
「ヒナタは、知ってるんだろうか。」
あのヒナタだけにねえ・・・。
しかしこのまま放置するのも何なので、その足でヒナタに確認しに行った。
さすがにこればかりはヒナタも知らなかったらしく、ナナミを呼び出し2人で問い詰めると彼女も渋々認めた。どうやら勝手にその機械を持ち出し、こっそり撮っていた様子。
「ナナミィ、さすがにそれはやめてよ〜。」
「・・・いいお金になったんだけどなー・・・。プレミアがつくやつなんかほんと凄いのにー・・・。」
「・・・まじでかって、いやいやだめだめっ。ちょっと、どんなの持ってんだよ、全部出してっ。」
何とか回収できた。たいていは普段の何気ないヒナタの様子だったが、数枚は・・・。
「・・・ナナミちゃん?絶対、禁止、だからね・・・?」
普段温厚な英雄の、笑顔であって笑顔でない様子を見たナナミが、その後同じことを繰り返すことはなかった。
そしてアダリーの発明品は、いつの間にか影も形もなく消えていたらしい。