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みんなで、しあわせ。

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「……さあ」
 アッシュはあやふやに首をかしげた。
「よく、分からない」
「そうですか」
 昔の自分なら、彼の体験になんとか科学的整合をつけようとやっきになったかもしれない。
「で」
「世界はまだ完全に預言から外れた訳じゃない、ローレライがそう言った。あいつはそれを聞いて、預言なんかどうでもいい、みんなが幸せになればいい。そう言った。そして……俺に、俺とあいつとの約束を守って、早く帰れと言ったんだ」
「ルークが?」
「約束は守れ、そういったんだ、あいつは」
 今日はあまり天気がよくなかった。窓をぱらぱらと雨粒がたたく。
「約束ですか」
「ああ。エルドラントで、あいつと勝負して俺が負けたときに。俺は必ず生き残ると、そう、あいつに約束をしたんだ」
 雨の音が強くなった。
「あいつは俺のレプリカかもしれないが、俺じゃない」
「ええ」
「あの時まで俺は、それに気付かなかったのかも知れないな」
 暫く、アッシュは黙った。ジェイドは手元に視線を落として、彼の次の言葉を待つ。
 雨音だけが、部屋を支配した。
「……なあ」
 その言い方は、ジェイドの知るルークとは似てもにつかなかった。
「あんたは、なんのためにレプリカを作ろうと思ったんだ?」
「なんのために、ですか」
 確か、ルークも似たような事を聞いてきた覚えがある。
「自分のしでかしたことを、詫びるために……でしょうかね」
「そうか」
 その答えは、どこかアッシュをひどく納得させたらしい。ひとつ、深く頷いた。
 それをしおに、ジェイドは立ち上がった。
「帰るのか」
「そうですね。次はナタリア姫との婚礼のときにでも」
「な……!」
「おや。私は呼んで貰えないのですか?」
 
 
 
「アッシュがねぇ」
「貴方は、まだ彼にわだかまりがあるんですか、ガイ?」
 それは、陛下に帰国の報告を済ませて直ぐのことだった。些細な用件とともにやってきたからには話がしたかったのだろう。ガイはジェイドの執務室……正確に言えばその一隅を手際よく片づけていたが、ジェイドのその問いかけに手をとめた。
「どうだろうな」
 そして、片づけを再開しながらもう一度、どうだろうな、と呟いた。
「俺が知ってるアッシュは、……そうだな、『まだお小さいのに、とってもお利口なルークぼっちゃま』から、いきなり『六神将、鮮血のアッシュ』だったからなー」
「ふむ。『ルーク』は、どうでしたか?」
「あいつはいつだって、あいつ自身だったとしか思えないな。……贔屓目かも知れないが」
「あなたはいつでも、ルークの味方でしたね」
「旦那ほどじゃないさ」
「おや。そうですか?」
 散乱していた本もすべて棚のあるべき場所に戻し、ガイは振り向いた。
「俺は、甘やかす方専門だったからなー。よかったのか、悪かったのか」
「いいんじゃないですか。誰にだって無条件の味方は必要だ」
 ガイは黙って、窓辺に立った。カーテンを絞って窓を開ける。風はなかったが、空気がゆるく動くのがわかった。
「……そうだな」
 なにやら先日から、皆の懺悔のようなものばかり聞かされている気がする。そういう柄ではないのだが。
「そう言って貰えると、少しは救われるよ」
 ガイラルディア・ガラン・ガルディオス、滅亡したと思われていたホド島の後継者は、いつのまにかマルクトの中枢で、皆に一目おかれる存在となっていた。表向きはあいかわらずブウサギ世話係だったりするが。崩れ落ちるホド島のレプリカを遠い目で見ていた彼は、相変わらず使用人根性が抜けなくてねと言いながら、日々宮殿中を駆け回っている。……そう、彼は宮殿のありとあらゆる所に、許可無く入ることができる権限を持っているのだった。秘預言の恐るべき内容が外れたとはいうものの、国内外に未解決の問題を抱えるいま、皇帝陛下の味方は多い方がいい。
「俺はなにもできなかったからな」
「……私もですよ」
 なにに対しても。
 ひと、ひとりの力はあまりにも無力だった。
「みんなが幸せに、か。……まったく」
 ガイはこちらを向かずに喋っていた。ジェイドは手元の本に視線を落とした。
「そんな聖人君子に育てた覚えはないんだがな、あいつを」


「興味深いレポートではありますが、ジェイド、貴方はいつから文学者を志したのですか」
 サフィールの嫌味をジェイドは聞き流した。予想のうちだ。
「帰還したルーク・フォン・ファブレ……アッシュの身体データを解析したのですが、第七音素の体内残留量が上昇していますね。ビッグバン現象が起こったことの証拠か、それともローレライの元で治癒現象が起こったときの名残か……いずれにせよレプリカの記憶残留はなし、音素乖離もなし。結果的に重大な心身の変化データなし、……ふむ」
 サフィールは数字が並んだ紙を繰り、ぐるぐる部屋の中を歩き回る。落ち着きのないことだ。アッシュの身体データを採取するにあたっては、キムラスカ中枢から頑強な反対があった。結局ナタリアの仲裁とアッシュ自身の希望、そしてデータの転用禁止の誓約をジェイドが立てることで、ようやく部分的なデータがベルケンド経由でもたらされたのだった。それとジェイドによる、アッシュ本人への聞き取りデータ。情報が少ない、と言うのがサフィールの不満だった。
「サフィール」
「なんです?」
「レプリカとは、何だったのでしょうね」
 言った瞬間、ジェイドは自分らしくない台詞だ、と思った。サフィールにとってもそうだったようで、彼は薄い色の頬をすこし赤くして、黙った。
 アッシュのデータを見る限り、ルークの痕跡らしきものはどこにも見あたらない。エルドラント跡地の捜索でも、ローレライの鍵をはじめとする、彼の持ち物などはひとつも発見されなかった。彼が欠かさずつけていた日記も、最後の数日を記したものだけが見つかっていない。
 ルークがこの世界にいた証拠が、どこにも。
「ジェイド」
 サフィールが口を開いた。
「少なくとも貴方は変りましたよ。……世俗にまみれたと言ってもいいですがね。すくなくとも以前の貴方なら、私がどうなろうが、世界がどうなろうが平然としていたでしょうし。ああ、勿論、ピオニーの影響もあったんでしょうが、それにしても」
 べらべらと喋って、ふと黙る。ゼンマイ仕掛けが切れるように。そして暫くしたら、またべらべら。サフィールの喋り方には、いつも奇妙なリズムにのった癖があった。
「……どうしました?」
 今日はいつまでも続きを喋り出さないので、ジェイドはつい、焦れた。
「いえ。あのレプリカルークですが。あれは私の芸術作品、頭脳の粋をつくし、持てる技術をすべて注ぎ込んだ渾身の作品、偉大なるかなカイザーディスト!あれを無粋な技で破壊してくれましたよ、ええ三度も!私の可愛い作品、大口径レーザーの美しいこと、あなただって見たでしょう?あれがあれば向かうところ敵無し、世界がひれ伏そうかというあれを、あれを……」
「あれはそんなに立派な代物でしたかねぇ。海上で襲ってくる割に水に弱いというのは致命的弱点だったのでは?」
「だまらっしゃい。あの美しいフォルム、感嘆すべき大パワー……」
「……もういいです。私は別に、貴方に慰めて貰いたいわけではない」
 ジェイドが手を振ると、サフィールが俯いた。
作品名:みんなで、しあわせ。 作家名:梁瀬春樹