非日常のような日常の生活
ふと帝人の背後からトムが話しかける。
それに振り向き、帝人は首を横に振る。
「どういうの付けていいのか分からないのもあるんですけど、どう付けていいかも分からなくて。」
苦笑いをしつつ、帝人はトムを見上げる。
トムはそれに笑って、香水の瓶を取る。
「両手出してみ?」
トムにそう言われて、帝人は両手を差し出す。
その出された手をトムは手のひらを上になるように向けなおすと、ほんの少し両手首に吹きかける。
「その手首についたのを、首筋に少し叩くようにしてつけるんだ。」
そう言われて、トムが言うように帝人は試す。
ふんわり甘い香りが自分を包むのが分かった。
「あ、いい香り。」
ポツリと帝人がそう零す。
それにトムは優しく微笑んで頭を撫でた。
「これ、お前にやるよ。
昨日開けたばかりだけど。」
そうトムは言うと、香水の瓶を帝人に渡す。
「え?
いいんですか?」
受け取りながら、帝人はトムを見上げる。
「おう。
俺が使ってるのだから、御そろいになっちまうけど。
それでもいいならな。」
にっこり笑いながら、トムは帝人の頭を撫でる。
「ありがとうございます。」
帝人は頭を撫でられながら、少し照れくさそうに笑う。
「ああ、それから・・・。
俺の事はトムでいいぞ。
静雄が言ってるように言ってくれていいからな。」
帝人の頭をぽふぽふと軽く叩きながら、トムが微笑む。
「え・・・いいんですか?」
突然言われたことにびっくりしつつ、帝人が問い直す。
「ああ、田中じゃあ、味気ないしな。」
笑いながらトムがそういうと、帝人は嬉しそうに笑った。
ふとトムの携帯電話がなる。
テーブル置いてあった携帯電話を取ると、どうやらメールだったらしく、それに返信すると、その携帯電話を閉じた。
「ああ、もうそろそろ21時近いのか。」
携帯電話で時間を見たのか、トムが帝人を撫でつつそう言う。
「あ、もうそんな時間なんですか?
じゃあ、そろそろお暇します。」
自分のポケットから携帯電話を取り出し、時間を確認してトムにそう告げる。
「そうだな、あんまり遅くなると危ないしな。
今、黄巾賊とか増えてきてるし。」
トムは帝人の手荷物を取ってきながらそう言う。
「あ、ありがとうございます。」
受け取りながら、帝人は微笑んだ。
そしてそのまま二人で玄関まで向かう。
帝人が玄関で靴を履き、鞄を肩に掛けると、香水を鞄に仕舞い、手荷物を持つ。
「香水のつけ方とか、ネットでも載ってるから見てみるといいぞ。」
トムにそう言われて帝人は頷く。
「今日は本当にありがとうございました。
ご馳走様でした。」
帝人は深々と頭を下げた。
「ああ。
そうだ、コレ・・・。
何か困ったことがあったらかけて来い。
相談ぐらいなら乗ってやれるから。」
トムはそういうと、自分の携帯電話の番号とアドレスが書いてある紙を帝人に渡す。
「ありがとうございます。
後で折り返しメールしますね。」
嬉しそうににっこり笑ってトムを見上げる。
「おう。
じゃあ、気をつけて帰れよ。」
そう言うと、トムは帝人の頭を撫でる。
「はい、ありがとうございます。
失礼します。」
にっこり笑って、帝人はそのまま部屋を後にした。
トムの部屋を後にした帝人は、池袋にある公園に来ていた。
通り道と言うのもあるが、なんとなく気分的にふらつきたかった。
ふと携帯電話をポケットから取り出し、メールを見る。
それに溜息をつきながら、メールを打ち始めた。
【ほんとうに来たんですか・・・。
静雄さんと喧嘩してたのは聞こえましたけど。】
そう臨也にメールを返信して携帯電話を閉じようとしたところにメールがきた。
それを開く。
【竜ヶ峰、明日学校が終わったら暇か?
明日早く上がれそうなんだよ。】
そう静雄からメールが来た。
それに帝人はくすりと笑う。
【いいですよ。
お茶でもしましょうか。】
そう返信して携帯電話を閉じる。
そして、噴水前のベンチに座った。
『田中さんから香水もらえるとは思わなかったなぁ・・・。
今度の休みにつけてみようかな。』
ベンチに座りながら、帝人はそんなことを考えていた。
「あれ、帝人君だ。」
ふと、帝人はそう声をかけられて、声がするほうを向く。
そこにいたのは、セルティ・ストゥルルソンと岸谷新羅だった。
セルティの横には愛馬の黒バイク[シューター]を携えていた。
「あ、セルティさん、新羅さん。」
そういいながら、帝人は立ち上がる。
【こんな所で何してるんだ?】
PDAに文字を打ち、セルティは帝人に見せる。
「あ、出かけてた帰りだったんですけど、なんか色々ありすぎて、いろんな事を整理しながらちょっとぼーっとしたくなっちゃって。
お二人はどうしたんですか?」
苦笑いしつつ帝人は二人に問う。
「ああ、往診の帰りなんだ。
途中、セルティに逢ってね。」
嬉しそうに新羅がそういうと、何処かセルティは気恥ずかしそうだった。
「そうだったんですか。
お二人が外で一緒にいるのが珍しいなと思ったんです。」
苦笑いをしつつ帝人がそういうと、新羅は嬉しそうに笑った。
「あれ、帝人くん香水なんてつけてたっけ?」
風で新羅のほうに香ったのか、小首を傾げた。
「ああ、今日、たな・・・トムさんが香水くれて、つけてくれたんです。」
少し照れたように帝人は俯いた。
それをセルティは不思議そうに、新羅何かを悟ったかのように顔を見合わせて首をかしげる。
【新羅、こんな時間だし、帝人を送っていこうと思うのだが、いいか?】
PDAにそう打ち込んで、セルティは新羅にそう聞く。
それに一瞬新羅は寂しそうな顔をしたが、帝人の顔を見ると笑った。
「いいよ、セルティ。
この時間は危ないしね。
帝人君と君とでは浮気なんてないだろうし。」
そういい終わるやいなや、新羅はセルティからボディブローをくらっていた。
「ぐはっ・・・、さすがセルティ」
おなかを抱え、痛みを耐えながら、そんな意味不明なことを新羅は言い、帝人はそんな二人のやり取りを笑ってみていた。
不意にセルティが影で猫耳のついたヘルメットを作ると、それを帝人に投げてよこす。
それを受け取ると、帝人は小首をかしげた。
【行くぞ、帝人。
新羅なんてほおっておいて。】
そうPDAに書いて見せたかと思うと、セルティはそのままPDAを仕舞い、愛馬にまたがる。
「あ、荷物貸して、帝人君。」
そういうと新羅は帝人から手荷物を受け取ると、セルティにそのまま渡す。
渡されたセルティは、影でその荷物を入れる籠を作るとそこにいれ、落ちないように蓋をする。
それを見ていた帝人も、ヘルメットを被り、セルティの愛馬の後ろに乗っかる。
「セルティも帝人くんも気をつけてね。」
そう新羅は言うと、手を振った。
「はい、おやすみなさい。」
帝人は軽く会釈すると、セルティにしがみ付く。
それをセルティは確認すると愛馬を走らせた。
帝人のアパートまで来ると、セルティは愛馬を止める。
もそもそと帝人はシューターから降りると、ヘルメットを取り、それをセルティに差し出す。
セルティは受け取ったヘルメットを、影に戻し、体内に吸収した。
「セルティさん、送っていただいてありがとうございました。
作品名:非日常のような日常の生活 作家名:狐崎 樹音