涼の風吹く放課後 お試し版
第一章/重奏のエテュディアン
地元の、とりあえず進学校とされるこの公立高校には、俺のいた中学からも一クラス分くらいの生徒が進学している。大概の生徒も同じように周辺の中学から集団でやってきて、しばらくは同じ中学出身同士でつるむのが自然の流れだ。新鮮な出会いを実感するには少し時間がかかるよな…と、今まではそう思っていた。間もなく入学式が始まる高校の、桜の花びらが舞う校門近くで、なぜか学ランを着ているこの少女?がこちらをじっと見つめていることに気付くまでは。
それは、花びら交じりの風をふわっと含んだ軽やかな髪と、血色のよいふっくらとしたほっぺを持った学ラン少女だった。しかし残念ながら俺にはこんな美少女と知り合いになった記憶はない。知らないうちに恨まれることをした? ひょっとして俺に惚れている? いや、流石にないな、などと頭の中でとりとめもなく考えているその間も、とにかく『彼女』に見つめられ続けている。恥ずかしさなのか嬉しさなのか、とにかく顔に血が集まってしまう。
周囲には俺以外に誰もいないし、このまま見つめられ続けているのをこれから同級生になる生徒に見られても体裁が悪い。かといって無視する気にもなれない、というより、『彼女』の視線に俺は釘付けにされていた。自分のことながら、勘違いした気持ちにさせられそうで焦る。そうだ、むしろ、何か悪いことでもしてないかどうか聞いてみるべきだ。新しい学校での憂いは早めに取り除こう、俺は自分の中でそう言い訳を作りながら、『彼女』に声を掛けてみることにした。
不審に思われたくなかったから、逆に、まっすぐ近づいてみる。『彼女』は、はっと気がついたような顔をして、俺を改めてまじまじと見つめたので、一瞬たじろぐ。すると『彼女』はいぶかしそうな顔をする。結局これでは俺はただの挙動不審な人物だ。これ以上変な人だと思われないよう、落ち着いて声をかけなければ。
「あの、どこかでお会いしましたか?」俺から声をかけた。
「…あ、あの、すみません、記憶にないです…。初めまして、だと思います。」
作品名:涼の風吹く放課後 お試し版 作家名:みにもみ。