涼の風吹く放課後 お試し版
「じゃ、ぼ、俺は会場に入ってるから。涼はまだここで待ってる?」
「あ、僕も行くよ。」
涼は本当に嬉しそうに俺の後ろをついてくる。ああ、いいのかこんな気持ちで…。涼は普通に男の友達が出来たと喜んでいるだけなのに。俺は涼の顔をまともに見られない。入学式会場の席が決まっていて、涼とは離れた場所に座ることになるので、このときは正直、ただ安堵した。そんな顔をあまり悟られないように、涼のほうに少しだけ振り向いて、手を振って去った。
入学式が終わると、クラス分けの割当表にしたがってそれぞれの新しいクラスに生徒たちが集まる次第となっている。そのクラス割当表が張り出された掲示板を、後ろからでもその特徴的な髪形ですぐ見つけられるあの美少年が、ぼーっと眺めていた。秋月という姓は、こういうときに便利だし、逆に煩わしくもあるかもしれない。五十音順では一番最初に名前が挙げられる確率が非常に高い。
1組から順に先頭の名前を見ていくと、2組ですぐ涼の名前を見つけた。そこから下へと視線を下ろしていくと、果せるかな、自分の名前を見つけた。何故か、高校の合格発表と同じような高揚した気分を感じた。
実は、入学式の間、頭の中は涼のことで一杯だった。そして、入学式が始まる前にはぞんざいな別れ方をしてしまったことを酷く後悔していた。ここは気楽に、自然に、声をかけたい。
「りょ…」
おもむろに涼の背後について声を掛けた瞬間、また後ろからどやどやとした集団が。
「よう、お二人さん。ひょっとして同じクラス?」
「俺たち涼ちゃんと離ればなれになっちゃったよ。寂しいよ涼ちゃん。」
「えーっと、立花勇ってのがキミかい? これはもう運命だね。俺たちの涼きゅんがとうとう…。」
3人はシクシクと泣きまねを始める。お前らは花嫁の父か。
「あ、勇。ほらほら見てよ、僕たち同じクラスだよ。」
涼は3人のことなど意に介さず、俺だけに声をかけてきた。
「あ、ああ。ほんとだ。驚いた。」
「よかったぁ。一緒のクラスになれればいいなって、入学式の間ずっと願ってたんだよ。」
「そ、そう。それは光栄だなぁ…。」
困った。3人の視線が痛い。
「あーあー。すっかり二人の世界だよ。」
「それじゃ、お邪魔虫は去りますかね。」
「そうそう、モテない三人組は3組と4組に分かれているからね。涼キュンの記憶の片隅に残っていたら嬉しいよ。」
作品名:涼の風吹く放課後 お試し版 作家名:みにもみ。