涼の風吹く放課後 お試し版
クラスから解放されると、もうクラブの勧誘が始まっていた。そういえばさきほどのオリエンテーションで見たが、プールの隣に武道場があった。畳敷きで、主に柔道部が使っている。顧問は元柔道選手の体育教師だという話で、そういえば入学式のときに紹介されていたが、スリムで精悍な見た目の、30代後半の男性教諭だった。涼にはさぞ男らしく見えただろう。
「なぁ勇、柔道部を見に行こうよ」
涼はもう何事もなかったかのように教室で俺に話しかけてくる。周囲の生暖かい目が注がれる。既定事実となってしまえばもう、からかわれなくもなるのだろう。災い転じて福となす、とでも思うしかない。涼ただ一人は、疑惑が解消されたものと思っているのかもしれないが。
これ以上取り繕っても逆に蒸し返すだけだし、教室にいてもいたたまれない空気であるし、もうどう思われても構いやしない、というか、どうにもならない。涼に誘われるまま俺もついて行くことにした。
今日は見学だけのつもりだったが、道場に上がる者は道着に身を包むべしという先輩のお達しを受け、道着を借りて新入生用の臨時の更衣室となっていたプールの更衣室に入る。涼は見るからにわくわくしていて、それ自体はとても可愛い。それゆえ余計に後が心配だけど。
とにかく着てしまおうと、涼に背を向けて、ぱぱっと制服を脱いで道着の下衣を穿き、上衣を羽織ったところで背後から涼の声。
「ねえ勇、どう着ればいいの?」
振り向くと、上半身のYシャツのボタンをすべて外した状態で、下はズボンを脱いだだけで下衣を穿いていない、つまりYシャツの隙間から胸の谷間?あたりの素肌が、少しくびれた無駄な肉のないへそ周りまで覗いていて、そのさらに下には下着、それも白のブリーフが見えている。無意識とは思うが、その格好で、少し腰を引いてシナを作られると、自分の下半身に何故か充血する感覚を感じる。困った。道着を着ているときに下半身が反応すると、目立ってしまうんだ。鎮まれ、相手は男じゃないか、と思うが、思うほど動悸が高鳴る。
「ま、まずは下を穿けよ。」
「あ、そうだね。」
涼はYシャツを羽織ったまま、「いしょ、いしょ、」と下衣を穿く。ちらちらと覗く白ブリーフになぜかドキドキする。こんな自分は知りたくなかった。自分が変えられつつあるのだろうか。
「じゃ、じゃあYシャツ脱いで、上を羽織って。」
作品名:涼の風吹く放課後 お試し版 作家名:みにもみ。