涼の風吹く放課後 お試し版
「オリンピックに出るような有名な柔道家でも、もともと身体に恵まれていなかった選手が結構いる。心・技・体の鍛練の目標は自己完成であり、自己との戦いだ。競技であるため当然他の者と争うが、目的は自己の鍛練であり、目先の勝ち負けを気にすることはない。身体的に不利だと思っても、気負わずに挑戦してほしい。ただし、気を抜いてやってはならない。柔道はとても危険なスポーツだ。君たちにとって柔道が自己鍛練に向いているかどうか、自分でしっかり判断する材料として、今日の体験を活かしてほしい。」
涼の顔がとても引き締まって見える。意気込みだけは大丈夫だろう。
本来は最初に受け身からみっちりやるところだが、今日はあくまで体験ということで、三年生の二人を相手にまずは簡単な立ち技のいくつか、小内刈り・小外刈り・大外刈りなどを掛けさせてもらうこととなった。
簡単に言えばどれも相手の上半身を崩して体重のかかっている足を刈り、自分の体重を掛けて倒すもので、タイミング良く入ればそれほど力が必要な技ではない。一つ一つ技のかけ方を実演しながら説明してくれたので、それほど難しいことではなかったのだが…。
三年生を相手に一つの技を十回繰り返しかけるよう言われ、一つ一つしっかりと確かめるように繰り返す。背格好はそれほど高くないが、がっしりとした体格の先輩が相手をしてくれたので、恐る恐るやってはかえって失礼だと思い、思いっきり掛けてみたが、なかなか足を崩せない。
「まぁ、そんなところでいい。次は君、えっと、秋月くんか?」
主将が声をかけると、涼は「はい!」と元気に答えて、俺と交代に入った。受ける側も、やや小柄な先輩に代わった。
涼は、俺の見よう見まねで、先輩に技をかけ始めた。最初、一回二回とゆっくり慎重に技の形をなぞるように動いていたが、受けている先輩からの「もっと思いっきりかけてみろ」という言葉に従って、動きが鋭く軽快になっていく。見た目と違って、運動神経というか、つまり身体の動きのカンを掴むのに優れているようだ。
しかし、涼の動きが俊敏になり、技の動きが大きくなるに従って、受けている先輩との密着度が高くなり、相手をしている先輩の表情が徐々に緩んできた。涼の上半身ははだけ、ちらちらと胸元がのぞけている。涼の上気した顔からの吐息がかかると、先輩はみるみるうちにニヤケていく。
「えいっ」
作品名:涼の風吹く放課後 お試し版 作家名:みにもみ。