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涼の風吹く放課後 お試し版

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 絡み合う二人に向かって走り出すと、涼の肩を押さえつけている原田先輩の腕を掴み、そして引き剥がした。予想外の方向からの攻撃に唖然とした原田先輩の腕を掴んだまま上からのしかかり、後ろ手に取って腕がらみの体勢でうつ伏せに押さえつけた。
「てめぇ!」
 原田先輩が体勢を返そうとするのを、俺は懸命に両腕で原田先輩の片手を捻りながら馬乗りになって押えつける。
「涼!逃げろ!」
 俺が叫んだそのとき、原田先輩はもう片方の腕で俺の襟首を後ろ手に掴み、背負い投げの要領で強引になぎ倒そうとする。俺は決めていた腕を離さないようにするのが精一杯で、自分を守る余裕がなかった。原田先輩は俺を掴んでいた手を離すやいなや身体をぐるっと回して強引に馬乗りの状態を逃れ、俺の背中に取りついた。俺はなおも原田先輩の片腕を放さないようにしていたが、原田先輩は背後から腕を首に巻き込むようにしてきた。
 締めが来る!
 そう思った瞬間、意識が、ふっ、と飛ぶ。耳に、柔道部員たちの「わぁぁっ」という声だけが残った…。

 気がつくと、目の前に涼が涙目で俺の顔を覗き込んでいた。
「あぁっ、勇、気がついた? 大丈夫?」
 なんとか頑張って笑顔を作ってみる。
「なんとか…生きてるみたいだな…。」
「またっ、そんなこと言って…。バカだな勇は…。」
 涼の目から涙が溢れてくる。
「ま、まぁ、身体は大丈夫みたいだから。泣くなって。」
「…ほんとに?」
「ああ。」
 本当はあちこち痛いが、涼に泣かれることのほうが痛い。心が痛いのが何より辛い。
「よかった…。」
 ようやく笑顔を見せた涼に、俺も笑顔で応える。そこに、涼の後ろから主将が声をかけてきた。
「どうも済まない。原田の奴、突然に血迷ったみたいで…。大変怖い思いをさせてすまなかった。」
「…えっと、その原田先輩は落ち着かれましたか?」
「いや、えっと…。いま、部員たちで落ち着かせているところだ。」
 ま、まだ取り押さえてるところのようだ…。強いからなぁあの人…。
「それで、こんなことになった上で、お願いをするのはまことに心苦しいんだが…。」
 主将が申し訳なさそうな口調になる。
「は、はぁ…。」
 俺は身体をようやく起こし、涼と並んで正座して主将のほうに向いた。主将も俺たちを向いて正座をすると、頭を下げてこんなことを言い出した。