涼の風吹く放課後 お試し版
「あ、ああ、わかった。じゃあ、俺はこの栗とかぼちゃのタルトと、柿とチョコレートのタルトで。」
「お、さすが渋い選択だね、勇。じゃあ僕はっと〜、やっぱりこの苺たっぷりのタルトは外せないな、もう一つは彩り的に、このメロンのタルトにしよう。」
涼はとてもウキウキとしている。秋月律子に仕込まれた、なんて言ってたけど、本心では作ることも含めてお菓子が本当に好きなんじゃないかな、この子は…。
「どうぞ、タルトをお持ちしました。」
お茶を一口頂いたところに、それぞれのタルトがやってきた。
まず、分け合うために半分に切ろうとする。けれど、柿とチョコレートの柿の部分がフォークではなかなか半分に切れない。
「涼、どうしよう、柿がうまく半分に出来ない。」
「ん〜。それは仕方がないねぇ。」
涼は、俺が格闘している柿の様子を見て、諦めたほうがよさそうと考えたようだ。
「じゃあ、勇が先にその柿を半分かじってよ。残りを僕が食べるから。」
えっ。そ、そんな、俺の食べかけを涼に食べさせるなんて。それはさせたくない。
「いや、それだったら涼が先に食べてくれ。食べたいだけ食べてくれていいから。」
「え？ でも、勇が頼んだタルトだよ。」
「いいよ、俺はそれほどお菓子好きじゃないし、沢山食べられないと思う。」
「ほんとに？ いいの？」
「ああ。頼むよ。」
「じゃあ、頂きます。」
そう言って涼は、チョコレートとカスタードのタルト土台の部分を切り分けて食べ、そしてタルトを丸ごと指で持ち上げ、おもむろにその土台の上に乗った柿を土台ごと半分くらい口でかじった。
「んっ。……。これ、美味しいよ！ 勇も食べてごらんよ。」
そう言って涼は、涼の歯形で半分に切り取られたタルトの乗った皿を俺に渡した。これを食べる、と思うと、いくら意識しないようにと思っても意識してしまう。顔が紅潮していくのがわかる。
「どうしたの、涼。本当は、お菓子嫌いなの？」
「いや、そんなことないって。じゃあ、俺もいただくよ。」
ぎこちなくタルトを指で持ち上げて、一気に二口くらいで、ぱくっ、ぱくっ、と口に入れてしまった。涼の言う通り、確かに甘すぎず、しっかりとした生のフルーツとタルトの土台とのバランスが取れていて、本当に美味しい。
「どう？」
作品名：涼の風吹く放課後 お試し版 作家名：みにもみ。