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涼の風吹く放課後 お試し版

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「作ったら、どうしてるの?」
「律子ねえちゃんが、事務所に持って行ってお客さんに振る舞ってるとか、あとはウチの親とかが食べたり…。あ、そうだ、作ったら勇もウチに来てよ、食べてもらいたいし。」
「え? 俺が、涼の家に?」
「そう。駄目?」
 また、涼の上目遣い攻撃。抗うつもりなんてもともとないけど、心がさらにキュンと刺激される。
「いや、俺のほうは駄目なんて、そんなことはない。そんなことはないよ。うん。それより、涼の家は大丈夫なのかよ?」
「大丈夫って、何が?」
「いや、だから、家に男友達を連れてきたりしても…。」
「何言ってるんだよ。友達を連れてきて駄目な家なんてあるの?」
「そ、そうだよね。あはは。」
「勇、今日なんだか変だよ。疲れてる? 無理させちゃった?」
「いや、大丈夫、大丈夫だから。」
「顔も赤いし、無理しないでね。」
「う、うん、心遣いありがとう。」
 そして、涼とひとしきり他愛ない話をしているうちに、眼鏡が出来上がる時間がやってきて、俺たちはタルト店を出て眼鏡屋に戻った。

 こうして、涼と俺との、俺の中での最初のデートはつつがなく終わった。順調に進んだ理由はもちろん、涼がデートだと認識していないからなのだけれど。俺自身としては、それで満足だった。
 それからというもの、週末に涼の家をお邪魔する機会などが出来て、涼の部屋で一緒に過ごしたりした。当然、涼の気持ちの上でも、また俺の態度の上でも、あくまで男友達としての関係なのだけれど。
 しかし、涼との関係が近づくにつれ、俺の中での心の壁がどんどん取り払われてしまうのを感じていた。その先にある世界には、一度入ってしまともう戻れないような怖さと、何ものにも変えがたい魅力が溢れているように見えた。

 俺と涼との関係が俺の中で深まっていく一方、学校のほうでは、部活の騒動によって涼の名前が学校中に知れ渡り、一部の挑戦心あふれる男子学生からかわるがわる毎週のように呼び出しを受け、告白されるという事態が続いていた。俺は、「涼キュンのナイト君」という、からかいのような、一部にはねたみも含まれているような、そんな呼ばれ方にも抵抗を感じなくなっていた。