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涼の風吹く放課後 お試し版

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 そう言って涼は肩を震わせだした。結局、いつもと同じことになってしまう。女子生徒達との悶着で既に注目を集めてしまっている上に、涼がシクシクと泣きだしてしまうため、同じ校庭にいて遠巻きに眺める人々、校舎の窓からこちらを眺めている人物がさらに増える。
「涼、大丈夫だ、泣くなって。な。」
 俺は涼をなんとかなだめようとしたが、結局涼はポケットからハンカチを取りだして涙を拭くと、学校から駆けだして去ってしまう。一人残された俺は、周囲の奇異の視線を浴びながら一旦教室に戻る。
 自分の鞄はわざと教室に置いている。こうして一旦教室に戻ってから一人で帰宅し、その後、涼の練習場所、あるいはときどき二人で『反省会』を行う場所となる件の神社で落ち合うのが半ば日課だ。
 件の神社には、俺の家からも自転車で10分ちょっとしかかからない。このあたりの氏神で、初詣などの時期を除けば普段は人影もまばら。その境内で、涼は自分の『夢』に向けての練習をしている。

 涼の『夢』というのは、最終的には「男らしくなること」の『はず』だ。入学当初は、真っ当に体育系の部活動で男らしくなることを目指したのだけれど、そこでいきなり大変な事件が起きてしまい、涼は部活動を断念せざるを得なくなってしまった。その経緯についてはとりあえず置いておいて、次に涼が目指したのは「アイドル」を目指すこと。もちろん「男性アイドル」である。どうしてアイドル? と言われると俺も説明に困るのだが、とにかく涼はそう考えたのだ。イトコで現役アイドルである秋月律子の存在が大きいことは当然だろうが、しかし正直に言って、そのイトコさんのほうがよほど男らしいと思うくらい、涼はこう言ってはなんだが、女らしいというか、男らしさに欠けているのだ。
 現時点の男らしさは置いておくにしても、正直、涼がジャニーズのようなグループに入って活動することは想像しにくい。そもそも、年齢的にも今から入るのは厳しいだろう。俺はストレートにそうアドバイスして、違う路線を考えさせようとしてきた。ダンスグループの一員とか、俳優とか。どんなオーディションが開かれる予定かも、調べてきたりして二人で話し合った。