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涼の風吹く放課後 お試し版

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 脚本は俺が担当する。それを読んで、演技指導は基本的に涼が行う。涼の都合が悪いときは、俺が代わりにやればいい。あとは、俺がしっかりとした脚本を書けば、ほぼ下準備は完了だ。
 その週末、俺は家に籠もって脚本書きに没頭した。1時間足らずの演劇だが、脚本書きなど経験もなく、朝から夜までキーボードに向かって頭をひねっていた。その間、涼からはときどき「早く読みたいなぁ〜」という能天気なメールをもらっていた。

 苦闘した甲斐があって、担任と涼からは「よく出来てるじゃない」と好評を得た脚本は、クラスメイトの手でコピーされて配布され、早速練習が始まった。
 涼は、実に力の入った演技指導を見せた。
「助川くん、そこの『正直者は本当に信じられないことをやらかすからな。本当に間抜けさ。』の間抜けは敵の海賊達のことだから、憎たらしい感じで言って。」
「斉藤くん、そのジャックへのセリフ『船さえ手に入れれば俺たちは見殺しかよ!』の部分は、ジャックから海賊たちの注意をそらすためだから、もっとわざとらしく、大げさに怒って。」
「田中さん、そこの蹴りは海賊すべてへの憎しみを込めて、もう親の仇のように全力で蹴っちゃって!」
 涼の脚本の読み込みは本当に深く、俺自身が気付かなかったヒロイン達の心の動きまでをきちんと表現させようとしていた。正直、クラス劇でそこまで求めるものかとも思ったが、涼の経験、そして芸へのこだわりがそうさせているのだろう。
 そして、演じている側も、涼のこれまで見なかった面、熱意を持って演劇に取り組む姿に引き込まつつあるようだ。案外、監督というのは適役だったのかもしれない。
 最初に思っていたよりは、ずっと、むしろ順調すぎるくらいに、演劇の準備は進んで、涼自身のドラマ撮影が入る頃にはほぼ一通り形になっていた。あとは、通し稽古をすれば準備完了だろう。クラスの中からはもう、涼がヒロイン役をやるべきだ、なんて声は出て来なかった。
 文化祭前の最後の週末に、ヒロイン役が足を怪我をしてしまうまでは。

 週明けのホームルームで、早速、対策が話し合われた。
「ヒロインのアクションをなくせば、ヒロイン役を替えなくてもなんとかできるんじゃないか?」
 俺はなんとか仕上げたものを出来るだけ無駄にしないようにと考えて、涼にそう提案した。