二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

涼の風吹く放課後 お試し版

INDEX|48ページ/52ページ|

次のページ前のページ
 

「そんなこと考えるのはまだだよ、最後のシーンまでやり切らないと。最後はいよいよキスシーンだしね…。」
「やっぱり、観客の前でとなると、涼でも緊張するか。」
「……。それもあるけど、まさか『こんなこと』になるとは、ね。」
「…え?」
 そのとき、舞台の準備を担当していた生徒から声がかかった。
「涼さん、準備できましたよー。」
「あ、はーい。じゃあ、勇、頑張ろうな。」
「あ、ちょ、ちょっと…。」
 『こんなこと』ってなんだろう…。キスシーンのことで言えば、やはり、相手が俺になってしまったわけで…。涼は、俺のことを意識してるんだろうか…。混乱した頭のまま、俺も出番を迎えて、舞台に向かわなければならなかった。

 キャプテンの逃走を助けるシーンをほうほうの体で演じ切ると、劇はいよいよクライマックスを迎えた。俺にとって演技派はすべて初めてだが、もうアクションはないし、セリフは頭に入っている。
「僕は、ただの鍛冶屋だ。」
「いいえ、あなたは海賊よ。」
 そして、二人抱き合って、キスをする、ふりをする。頭の中で、そのシーンをシミュレートする。そうしている間も、さきほどの涼の言葉が頭から離れない。
 頭を整理する間もなく、いよいよラストシーンが訪れる。舞台中央で待ち構える俺に、おだやかな微笑みを湛えた涼がゆっくりと近づいてきて、身を寄せる。一本のスポットライトだけが、俺たちを照らす。客席が静まり返り、そして、俺たちのセリフを待つ。
 演技としての、セリフの交換。涼がセリフを言い切ったところで、最後に俺たちに出来ることは、二人の頬と頬を合わせ、客席に愛する二人の姿を見せるだけ。俺たち二人の姿が、この劇の印象のすべてになる。そう思ったとき、俺は、自分の中の得体のしれない感情がこみ上げてくるのを感じた。
 こんな場面にかこつけて何かをしようという気があったと言われても仕方ないけれど、俺の気持ちとして、真実に涼を求める気持ちが、この劇のクライマックスというきっかけで露呈してしまったというのが、自分の中ではもっとも近い気持ちだった。

 俺は、涼が近づけてきた唇に、引き寄せられるままに、唇を重ねた。

 客席は、静寂に包まれた、数秒後、ざわ、ざわという声がたち始め、やがて「うおぉぉぉぉ〜!」という野太い歓声と拍手に包まれた。