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涼の風吹く放課後 お試し版

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「決心、というほどじゃないけど…。女性アイドルとして成功すれば、男性アイドルとしてデビューさせてくれるって言うし…。他にそうそうチャンスはないかなぁって、思うんだけど…。」
 これで涼が本当にただの一般人なら、冗談としか思えない話だ。でも、この話は、現役アイドルである涼のイトコが絡んでいる話だ。断るつもりだとしたら、こんなふざけた断り方はしない。つまり、事務所側は本気だろう。それなら、涼のためを考えれば、言うことはない。
「なら、いいんじゃないか。精一杯ガンバレよ。」
「…ほんとにそう思う?」
 涼の考え方は大胆だが、行動はとても慎重だ。人の意見をよく気こうとする。それも、いきなり聞くのではなく、本人の中できちんと考えを出してから聞く。だから、俺も遠慮なく答えるようにしてきた。どちらにしても、涼は自分できちんと決めて行動する。
「本当だ。こんなこと言ったら涼は嫌かもしれないけど、俺は、案外やれるんじゃないかと思う。女性アイドルってことは、男から見て可愛いってことが必須条件だけど、涼は、十分満たしてるんじゃないかな。」
「……。それは、僕が女の子みたいだからってこと?」
 涼は、少し顔を紅潮させながら、目を反らし気味にして聞いてきた。少し、怒ってるのかもしれない。
「女性アイドルになれると見立てられてるということは、そんじょそこらの女の子よりずっと可愛い、そう評価されたということだろ? それは、涼の武器だよ。」
「……。僕が、可愛い?」
 釈然としていない顔。確かにこれまでの人生、可愛いと言われ続けてきた涼ではあっても、アイドルとして可愛いかとなると別問題だ、そう思う気持ちはわかる。でも…。ここは、身近にいる男の俺が保証してやるべき、か。心に決めて、涼に語りかける。
「そんなにアイドルのことをよく知ってる訳じゃないけど…。他のアイドルと比べても、俺は、涼のほうが可愛いと思う。」
 しまった、最後のほうは口がうまく回っていなかった。あわわ、と言うに近い感じになってしまい、自分の顔も紅潮してしまう。涼の顔を、まともに見れない。
「……。まったく。勇まで僕のことをからかうなんて…。」
 涼の呆れたような声に引き戻されて、涼の顔を見る。いつもの、穏やかさをたたえた素の表情に戻っていた。