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涼の風吹く放課後 お試し版

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「わかったよ、みんなに乗せられてみる。まぁ、じきに男が女性アイドルをやるなんて無理があるとわかって、男に戻るしかなくなるよね。とりあえず、タダでレッスンさせてもらえるって話だから、そこはちゃっかり利用しようかな、なんて。」
 イタズラっぽい笑顔を涼は見せた。こんな現金なことを言うときにも天然で小悪魔っぽい表情を見せるものだから、無理にでも女性アイドルにしたいという事務所側の気持ちが逆によく理解できてしまう。
「そうだな、そんな感じで気楽にやっていいと思うよ。どうせ元々男の子だし、女性アイドルをやらせた責任は全部事務所にあるわけだ。」
 ぎこちなさを自分でも感じながら、俺も涼に笑いかけてみる。
「うん! でも、勇も僕を乗せたんだからね。だから、ついでにお願いしていいかな…。」
「まぁ、出来ることなら…。」
 ドギマギとしている気持ちをなんとか抑え切った僕に対し、涼は恐ろしいほどに可愛らしい『お願い』を仕掛けてきた。
「今日これから早速レッスンしに行くんだけど、レッスン場にも僕のことを女の子として申し込んであるって話なんだ。だから、行く前に女装しないといけないんだけど…。バレないように見張っててくれる?」

 涼は、そのまま境内の隅にある小さな社(やしろ)の裏で着替え始めた。俺は一応、誰かが来ないかどうか社の表側を見張っていた。この社は、この神社の本殿にいる神様とは別の神様だと、涼は言っていた。なんでも、芸能の神様だという話だ。そういうこともあってか、涼はこの境内の隅のほう、芸能の神様の社の前で練習をしていることが多かった。
 こんな所で躊躇なく着替えられることといい、女装することも厭わないほどのレッスンへの意気込みといい、涼はやはり、芸能への適性が高いのだと思う。どんな形であっても、芸能界への一歩を踏み出したことは喜ばないといけない。