さらば青春、そしておかえり!
中途半端なところで言葉をきった僕にしばらく臨也も何もいわなかったが、ふと言葉を零した。
「そうか、無視すればよかったのか」
「・・・は?」
「いや、うん、そうか。有難う新羅。全く考えつかなかったよ俺としたことが。まいったなぁシズちゃんに影響されて俺も馬鹿になっちゃったのかな、あーアイツホントしねばいいのに。
でももう、・・・もう無理だろうなぁ、俺もシズちゃんも。無視するなんて。今日ドンパチやっちゃったからねぇ。もう方向性を変えるなんてできないよ」
うんできないね、無理無理。何故か満足気に笑いながら臨也は更に続ける。
「それに何で会ったかは俺だって知らないよ。そうだな、思いつくとすれば、・・・この前本で読んだんだけどね。
俺達はきっと運命の黒い糸で繋がってるんだよ」
「ぶっ」
思わず噴き出して手元が狂いそうになるが何とかおしとどめて、これで最後だよといって臨也の脛に湿布を貼る。黒い糸、黒い糸ねぇ、と歌うようにつぶやくと存外恥ずかしくなってきたのかうるさい馬鹿しね新羅と罵詈雑言が聞こえてきた。
「嘔吐感がこみ上げてきたんだけど。患者の症状悪化させてどうするんだよ藪医者」
「患者自身が言ったことにまで医者は責任持てないよ」
尚も反論しようとする彼を遮るかのように間抜けな着メロが部屋に響いた。
・・・着メロだと、信じたい。
「あ、ドタチンだ」
「え、臨也、これ着メロだよね?これ彼専用の着メロ?もしかして」
「そうだよ。あってるでしょ」
妙に自慢げにふっふーんと笑いながら臨也は出ていい?と俺に聞いてきた。こういうところは客商売をしているからか礼儀正しいなあと感心しながらも、私は頷いて用具を片づけ始める。
「もしもしドタチン。久しぶり、卒業式ぶりかな?どうしたの?こんな時間に」
『卒業してもその呼び名のままなのか。・・・まぁいい。さっき池袋にいたんだが・・・お前また静雄とやってただろう』
「えっドタチンみてたの?声かけてくればよかったのに」
『俺はまた前みたいに巻き込まれるのはごめんだ』
「あっは!そういいつつこうやって電話をかけてくれるところがドタチンらしいよね!
あのね、今新羅の家で手当てしてもらってたんだけど、医者になったらしいよ、勿論正式なのじゃなくて闇医者ね!同窓生のよしみで無料で教えてあげるよ」
最初は電話から声が漏れ聞こえていたのだが臨也がジャケットを羽織って玄関へ向かっていくうちに遠のいていく。僕も音を立てずに静かに彼を追った。
「にしてもさぁ、このままだとほんっと俺達前いってたみたいになりそうじゃない?・・あれ、覚えてないのドタチン?・・・ふふ、あながちだと思うけどなぁ」
ちらりとこちらを見て目だけで礼をいって、去っていこうとする臨也の肩をがしりと掴んだ。
「・・・・何、新羅」
「臨也」
にこり、と笑う。
「僕たちもう学生じゃないよね」
「そうだね」
「俺は闇医者に就職したっていったよね」
「就職かはしらないけど・・・いったね」
「そして君は今のところ俺より懐があったかい」
「・・・・・・ちょっと、新羅、もしかして」
ぴっ、と臨也の前で両手を広げて指を折った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・野口さん?」
「君のところの基準は野口さんはおろか樋口さんも論外だったはずだけれど」
「ちょっ今まではタダだったじゃん!」
「だから先程もいったけれど僕たちはもう学生じゃないし僕は闇医者になったし君の方が懐があったかいだろ。それにね、これでも友情割引してあげてるんだよ?」
ユ・ウ・ジョ・ウ!友情だって!昔の僕なら反吐がでる言葉だ!
・・・昔ってどれくらいかなぁ、小学生の時にはもう静雄がいたし、中学生の時は臨也がいたし、高校なんてもってのほかだ。まさか再会するとは思わなかった。彼らがどの道にいくなんて興味がなかったし、ましてや学び舎を出てからも会うなんて一切考えていなかった。この人口密度の中、しかも言葉は交わしたけれどろくに聞いてもいなかった彼らと!あぁ本当に不思議だ、もし僕が目の前の彼ならこれだから人ってやつはといいだすんだろうけれど俺は違うから別な風にいおう。
これだから、人生って奴は!
「ちなみに普通ならね・・・」
「あぁもういいよちょっとドタチン今の聞こえてたでしょ何かいってやってよ!」
『・・・・・スマン臨也』
「っ・・・!」
携帯電話を肩の上で両手で抱え込みつつキッと赤い瞳がこちらを向く。私は鷹揚にそれを見据える。
そして火花が散ろうとしたときだった。
「・・・・・せぇ」
「・・・・・・・・・・・・新羅?」
「いや、私は何もしてないよ。みてたでしょう。ずっとそんな隙なんてなかっただろ?」
『どうした、二人とも?』
「・・せぇ・・・せぇくせぇくせぇノミ蟲くせぇええええええ!!」
作品名:さらば青春、そしておかえり! 作家名:草葉恭狸