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【幻水2】赤い実のゆくえ【カミマイ】

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「汚いな」
「ゴッホッ、ゴホゴホゴホッ!カッ、ゴホッ……」
「何?」
「カ、カミュー、おま、な、何、言って……」
 ジョーは目尻に涙を浮かべカミューを苦しそうに見つめた。汚れた唇とテーブルを備え付けのナプキンで拭く。
「やっぱりこれは恋か…恋ってこんなものなのか……」
 自分に納得するようにカミューは呟く。
「……男相手に恋とか恋じゃないって…お前何言って……」
「…………」
「……付き合った女がいないわけじゃないだろ。むかつく奴だな」
「……確かに好きになった女性は何人かいるさ。だけど……初めてなんだよ、こんな気持ち」
 すがるように自分を見つめるカミューに、ジョーはむずむずと出てきた笑いを耐えつついった。
「ま、まさか…初、恋……?」
 ジョーがふきだすのをこらえていうと、カミューの顔は沸騰したように熱く赤くなっていく。
 彼のことを思うと胸が痛い。切なく、苦しい。彼の笑顔を思い出すと自然に頬が緩んでいて、胸の鼓動が鳴り出す。
 恥ずかしそうに顔を両手で隠すカミューに、ジョーは耐えられなくなってとうとうふきだした。腹を抱えて笑うジョーに周りが好奇の目を向ける。
「名うてのカミューが初恋だぁ?傑作だな」
 街を歩けば黄色い声がひそひそとも堂々とも聞こえてくる、引き手あまたのカミューが初恋まだなど誰も思うはずがなかった。
「しっかし、よりによってあのマイクロトフとは……」
「マイクロトフ……」
 ふう、と甘く苦い溜息をカミューは吐く。
「お笑いだよな!!」
「ちがうだろ!」
 あははと笑うジョーにカミューはテーブルを叩いて抗議した。そのまま頭を抱えてうつむく。
「ああ…なんで男なんだ……」
「……マイクロトフが女でも恐いけどな」
「そんなこと考えるな」
「あ、それってジェラシー?」
 カミューの冷たくするどい目がジョーを射抜く。失敬とジョーはカミューの視線をよけるように言うと、パスタのサーモンをフォークで刺した。
「実りようが無いだろ…あのマイクロトフだぞ……」
「………」
「聞きにくいけど…あいつとどうこうしちゃいたいととか思ってんの?」
「………」
「……無言で赤面しないでくれよ……」
 泣きそうにジョーは頭を抱えた。体には鳥肌がプツプツとでている。
「マイクロトフのどこがいいんだよ」
「………どこが好きってはっきり言えないよ。変わらないんだ友情の好きと。だだ、友情の好きが度を越えたって言うか……」
 赤面しつつ語るカミューに抑えきれない鳥肌を感じらながらジョーは自分の二の腕をさすりはじめる。動揺を隠すために、残りのパスタに手をつけ始めた。
「友情ねぇ…。仲いいもんな、お前ら」
 フォークに巻き取られた白い細いパスタが口元で消える。
「…すごい効き目だなアレ……」
 感心したように言うジョーの小さな独り言をカミューは聞き逃さなかった。うつむいていた顔を上げる。
「……聞き捨てならないな。今のはどういう意味だ」
「あれ?き、聞こえちゃった?」
「ちゃんと、はっきり、聞こえたよ。アレとはなんだ。一体何をした?」
 疑わしげに自分を見つめるカミューに微笑んでからジョーは口をあけた。
 ジョーはしばらく黙っていたが、じつと見つめられることに耐えられなくなったのか渋々と話し出した。
「……話す。話すが、交換条件がある」
「何」
「窓掃除手伝ってくれる?」
 首をかしげてかわいらしく言うが全く可愛くない。カミューはちっ、と舌打ちすると軽くうなづいた。
「では。ある男の話をしよう」
「何の話だ」
「まあ、聞けって」
 ジョーはわざとらしく咳払いをする。
「ある男には友人がいた。性格は正反対なのに何故かとても仲の良い二人の友人。男が街のとある場所で遊んでいると、とても面白い果物をもらった。ラブベリーという赤い実。男はそれを使ったケーキを手に入れる。そして思った。このケーキをあの友人のどちらかに食べさせようと。そしたらこの最近退屈していた生活も面白いことになって楽しいだろう、そう思った」
 ケーキ、という単語にカミューはぴくりと反応した。
「男はケーキを二つ用意した。一つは件のラブベリーのケーキ、もう一つは普通のブルーベリーを使ったケーキ。二人の友人は男からもらったケーキを嬉しく思い二人で一緒に食べた。ここでラブベリーの説明をしよう。ラブベリーはめったに手に入らない木の実だ。その実を食べると心は弾み、世界は薔薇色、目の前にいる相手に恋をしてしまう。さて片方の友人はというと、そう、立派ににもう片方の友人に恋をしいるというわけだ。………カミュー?」
 うつむいて固まってしまったカミューを心配になり、ジョーは声をかけるが返事はない。
「……っ」
 カミューはぎゅっと目を瞑り、手で口元を押さえていた。あまりにもジョーの語る真相が衝撃的だったからだ。
「カミュー?大丈夫?怒ったか?何、もう少しすりゃ直るって。……なあ、おい。どうしたんだよー」
 目の前の友人の声さえもカミューには聞こえていなかった。
 胸の心臓の音が耳の奥で聞こえる。
 マイクロトフに向かうあふれる気持ちが一気に湧き出てくる。
 体中の血潮が甘くたぎる。
 彼の声が聞きたい。
 彼に、触れたい。



 ――――この気持ちはなんだ?