影踏み(1)
「!なっ…!!!…ぁ、スペイン…?」
突然のことで面食らったのか、ロマーノが一瞬戸惑った表情をしたが、スペインと分かった瞬間、声を荒げた。
「す、スペインこのやろー、びっくりするじゃねぇか!バカヤロー!!しかも自分から誘っといて待たせるとは良い度胸してんじゃねぇか!」
「しゃ、しゃーないやん、うちの畑のトマトがちょうどええ感じに赤くなっててん、収穫時期ずれるともったいないってロマーノも知っとるやろ?ほら、ぎょー
さん持ってきとうし、これで勘弁したって?な?」
「やっぱり仕事って、トマトの世話だった訳ね…」
「ほら、こんなうまそうになっとったら収穫するしかないやん?」
若干呆れ顔のフランスを無視しながら、スペインは先程は芝生に置いていたらしい大きなかごを、白いシャツを腕まくりした健康的に日焼けしている彼の両腕
に抱えてみせた。そのかごの中には、食べ頃のトマトがたくさん入っていた。そのトマトを見せられて、確かに、この時期を逃しては熟れすぎて逆に美味しくな
くなりそうだ、そうロマーノは思った。
「うわぁ?、さすがスペイン兄ちゃん!本当に美味しそうなトマトだね!これだけあればパスタにもピッツァにもたーっくさん使えるね!スペイン兄ちゃん、あ
りがとう!」
イタリアはトマトを見ながらすでに今晩の献立を思い浮かべているようだった。
「親分自慢のトマトやしな、ほめてくれてありがとな、イタちゃん!」
「あの、お兄さんのことは無視な訳?」
「あーフランス、そこにおったんか。どこに行ってたん?」
「始めっからいたし、ここ、お兄さんの庭だしね?」
「そういやそうやったなぁ、ごめんなー気付かんかったわ」
「基本的にお前はロマーノしか見えてないからだろ。…あー、まぁとにかく座りな、ほらお前の席もあるし」
長年の悪友同士のいつも通りのやりとりをしながら、コツコツと、空いているガーデンチェアの前のテーブルを指で軽く叩いてスペインにそこの席に座るよう
フランスが促した。
それから暫し綺麗な薔薇を眺めながら、時折イタリアが「あれはどんな薔薇?」などの質問するのに対してフランスから品種等の簡単な回答がある…そんなや
りとりや、見た目も味も逸品のお菓子を食べながら他愛もない話をしていた。
相変わらず不機嫌そうなロマーノを例によってスペインが空気を読まない発言を連発してロマーノが怒って帰ろうとする場面もありつつ、昼下がりを過ごして
いった。