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二月

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 部活後、部室での着替え中に田島が大声を出した。
「明日ってさ、バレンタインだぜ!」
 それから、周りの奴らにいくつ貰えるかだの、誰から欲しいだの、それはもう楽しそうに話し始めた。
 三橋の話によると、田島はクラスでなかなか人気があるらしい。オレにはいまいちよく解らないが、野球もうまいし、それなりに魅力があるんだろう。
 甘いものも大好きみたいだから、明日が相当楽しみなようだ。


「なー、阿部はどう? 貰える当てってあんの?」
 知らないうちに隣にいた田島が聞いてくる。
 正直明日がバレンタインだなんて、今田島に教えてもらったようなもんだ。あまり興味はない。でも、貰える当てと言われれば、一人。
「当て、か」
 オレは後ろをちらりと振り返る。
 案の定、水谷と目が合った。水谷はびくりと肩を震わせ、まずい、という表情を浮かべた。
「無いことも、無いかな」
 口元だけで笑みを作り、水谷に視線をやった後、田島に向き直ってそう言った。
「へー、すっげーな」
 田島が感心したように言う。
 そして、オレの発言に皆が少しざわつく。皆、みっともねーな。
 その相手が誰か、なんて知ったら、それこそざわつき程度じゃ収まらないだろう。
 こういう時率先して茶化す水谷は、もちろん今は押し黙っている。
「水谷、お前は貰えそうにないってヘコんでんのか?」
 そんな水谷を目ざとく見つけた泉がからかう。
「ちっげーよ! 別にヘコんでなんかねえから!」
 目を少し潤ませて泉に言い返す水谷が笑える。そんなに必死で弁解しないでもいいのに。
 冗談のつもりで言ったのに、そんなに意識されても困るんだけど。
 でも、水谷をからかうのは、オレも好きだ。
 そして、泉に遊ばれたままにしておくのは、正直癪に触る、という気持ちもある。


「まー明日はどうでもいいけど、オレは先に帰るぜ」
 皆は明日のことで浮かれてるみたいで、いつにも増して着替えがトロい。オレはさっさと着替えを済ませ、バッグを掴む。
 田島に余計なことを聞かれても困るし。誰から、とか聞かれて、オレは隠し通す自信はあるけど、水谷がボロを出す可能性があるから。
「えっ、阿部もう帰んのー!」
 それに、水谷が恨みがましい目でオレを見てるから。帰り際に水谷に捕まって、それでぎゃーぎゃー言われても、オレは今疲れてるから、きついこと言っちゃいそうだし。
 オレが言うと水谷が言い返して、冷たくすると今度は涙目になって、泣かせるのも悪くはないけれど、その後腫れた目のまま帰らせるのはかわいそうだし、そんな水谷を見ていると、たぶんオレも離れ難くなるに決まっている。そしたらどんどんどんどん帰りが遅くなって、何時に家に着けるかなんてわからなくなってしまう。
 だから、先にこの場から消えるのは、オレだけでなく、お前のためでもあるんだからな。
「なんだよー、詳しい話聞かせろよー」
「あーはいはい、気が向いたらヒマな時にな」
 田島をあしらって、オレは扉へと歩いていく。
 水谷の隣を通り過ぎるとき、ほんの小さな声で「阿部のバーカ」と聞こえた。
 着替えの手を止めたまま、オレのことを睨んでいる。
 だから、オレも仕返しをしてやる。
「期待してんぜ」
 そのまま足を進めつつ、他の奴には聞こえないよう、そっと囁いてやる。そして、水谷がどんな反応をするか確かめないまま、オレは扉を開けて外へと出た。



 ただの冗談だ。水谷も男だし、別にバレンタインにあいつからチョコが欲しいなんて本気で思っていない。
 でも、さっきの事で、少しだけ、期待し始めている自分が確かにいる。
 自転車置き場に向かう足取りが、なんとなくいつもより軽い気がする。練習の後なのに、だ。



作品名:二月 作家名:ぺろ