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二月

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 そんな事があったから、オレはついつい登校した途端に水谷の姿を探してしまった、というわけだ。
 思った通り、水谷が挙動不審になっていることにオレは満足している。
 チョコを持ってきたかどうかはこの際どうでもいいけど、たぶん昨日の夜水谷はくだくだ悩んでオレのことばっかり考えていたと思う。
 そうやって、水谷はオレのこと考えていればいいんだ。オレには水谷のこと以外にも考えなきゃなんねえこととかいっぱいあるけど、水谷は、別のことは何も考えなくてもいいから、オレのこと考えてればいい。
 自分勝手なことばっかり言っているとは思うけど、心の中で言うだけなら別に水谷に迷惑かけてないんだし関係ない。実際オレのことしか考えてない水谷はすごいウザいだろうしイライラするに違いないけど、そういう願望もオレの中には確かに存在して、たまにはそれが現実になってもいいだろう、なんて思う時もあるんだ。


「あー、えっとあのさ、阿部さ」
 水谷がオレの機嫌をうかがうような顔をして声を掛ける。
 別にオレは怒ってなんかないのに、こういう態度を取られると、むっとするというか、多少傷つくんだけど。
「何」
 少し低めに返事をすると、ん、と水谷が息を呑む。
 だからそうビビんな。
 そんなオレの思いも気付かずに、いつもよりずっと小さな声で、あのさ、と言う。
 視線が、オレの手元から少しずつ右側に移動する。それを一緒に追っていくと、最終的に、机の脇に掛けてあるオレのカバンへと到着した。
 カバンがどうしたんだ、という問いをこめて水谷を見る。
 オレとカバン、二つを交互に見やり、水谷の瞳がせわしなく動く。その瞳に合わせるように、唇もぱくぱくと、開いたり閉じたりを繰り返す。
 言おうかやめようか、その逡巡がオレにも伝わる。
 言いにくいっていう気持ちはよくわかる。でも、オレはそういうはっきりしない態度が好きじゃない。
 だから、わざと音を立てながら椅子を引いて、肩肘をつく。オレの上半身はぐっと前のめりになる。
 まずは近づいた距離で、ちょっとした威圧感を与える。
 それから、いらいらしたように眉を寄せてみれば、オレの意図はすぐ水谷に伝わる。
 言うならさっさと言えよ。言わないんなら、そういう意味ありげな態度を取るのはやめろ。


 そうして暫くの間、さっきからあちこち彷徨っていた目をじっと見つめていると、水谷もようやく瞳を定め、オレの視線に答える。
 戸惑いつつも、たどたどしく口を開く。
「チョコ……」
 微かな音でそう一言告げる。
 早速かよ、と内心驚く。一言目から直球で来るとは、予想外だった。
 しかし、そのストレートな言葉とは裏腹に、水谷の表情は、みるみるうちに変化していく。
 こっちの方は、オレの想像通りだった。
 まず、目尻がほんのりと赤くなった。
 その赤みはじわじわと広がりを見せ、そして、次第に色みを増していく。
 頬が赤い、どころか、首まで真っ赤になっている。
 そして、いつも潤んでいることが多いけれど、今は瞬きをしようものならぽとりと雫が落ちてしまいそうなほど、瞳は水を湛えている。
 さっきの比ではないほど熱を持っているだろう。今水谷に触れてしまえば、きっと一瞬でオレの指先は熱くなってしまうに違いない。
 それでも水谷はオレのことをじっと見たままだから、今度はオレのほうがたまらなくて、目を逸らしてしまいたい気持ちになった。
 さっきまであんなにうろうろさせていた視線なのに、こんな表情になってみせた途端、どうしてじっとオレばかりを見つめるんだろう。
 もしこれがわざとだったら、殴りたいほどむかつく。
 でも、わざとじゃなくて、水谷は意識してないのにこんな風になってて、そこでオレが、オレってこいつにこういう表情をさせることができるんだ、って思っちゃったら、今まさに目の前にいる水谷みたいに、オレまでこんな反応をしてしまうような気がする。
 そんなのまずい。水谷に色んなことを感づかれてしまう。
 水谷には、オレがどんなこと考えてるかなんて、知られたくない。それはオレのプライドに関わる問題だ。例えばもし、水谷がそれで喜んだ顔を見せるとしても、でもやっぱり知られたくないものは知られたくないんだ。
 真っ赤な顔と潤んだ瞳に耐えられなくなって、オレはついに目を伏せる。でも一応視界の端に水谷の顔は入っているから、様子はちゃんとわかる。相変わらず、オレの顔を見つめたままだ。


「誰かにさ、貰った?」
 二言目も、予想とは違うものだった。
 嫉妬でもしてんのか、と一瞬思ったけれど、たぶんそれはオレの思い上がりだ。すぐにその考えを打ち消す。
 そして、だからカバンを見てたのか、と納得する。このカバンの中にチョコレートは入っているのか、と問いかけていたというわけか。
「貰ってねえよ」
 答えて、一呼吸置いた後、再び視界の照準を水谷に合わせる。
 ぴくん、と水谷の身体が弾かれたように揺れる。
 そして、ここでようやく視線がオレから外された。
 少し安心した。あの目でずっと見られてるなんて、苦痛だ。
 オレは何か気の利いたことを言えるような性質じゃない。でもあの顔を見ていると、何か優しい言葉の一つや二つ、掛けてやらなければいけないような気になってしまうんだ。そんな気持ちにずんずんと追いつめられていくようで、鼓動がどんどん激しくなっていく。
 恐怖によく似た感覚だけど、怖いくせに、どことなく心地よい。それがさらに気分悪くて、逃げ出したくなる。水谷のあの顔、あれは、色んな意味で、本当に良くない。

作品名:二月 作家名:ぺろ