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迷う事は許さない

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 放っておくと何時までも終りそうにない。
 雲雀は無意識に唇を尖らせて、ふんと鼻を鳴らすとすぐ目の前の窓の鍵を開錠して大きく開き、そこから軽やかに飛び降りた。そのまま、正門までの道をゆっくりと歩き出す。
 資料が欲しいという気持ちも大いにあったが、少年期に自分を育て、今も何かを世話を焼いてくれる元家庭教師に対して、人並みに恩を感じていた雲雀は、日頃の借りを返そうかという気紛れを起こしたのだ。

 そしてその気紛れで、送り込まれていた敵の主力部隊を見事に壊滅させた。

 正門が開かれてすぐに屋敷の付近一帯は血の海と化し、長い間途切れなかった銃撃音、爆破音、人間の悲鳴 ――――― そういった「音」が消え去った。
 時計の針が完全に一周する前に、ディーノ達を半月に渡って苦しめていた黒い服の群れは全滅し、白い戦闘服を纏った後方支援部隊の指揮官達も全員死亡した。
 敵方に残されたのは非力で無能な非戦闘要員のみで、彼らはまさかの事態に武器を取り落とし、震え上がり、ただ逃げ惑うことしか出来なかった。
 雲雀が動いた時点で、勝負はついていたのだ。
 その一部始終を、何より突然現れた元生徒を、ディーノは部下達と共にポカンとした表情で見守っていた。
 視界に入るものだけでも、五十人以上の人間が雲雀の愛用している武具の餌食となっていた。
 キャバッローネ邸の周囲の道路脇や抗争の被害を被って崩壊した民家の付近に、折り重なるようにして倒れている者達は、誰一人として息をしていない。
 倒れた者の多くは雲雀が操る針鼠の鋭い棘よって串刺しにされ、失血死したようだ。
 その証拠に、長閑であるはずの街並みには不釣合いな臭気が濃く漂っている。
 回避すべきターゲットである雲の守護者が現れたという連絡が本部に行き届いていなかったのか、間を置かずに新たな援軍が遣って来たが、雲雀は涼しい顔をしながら、小隊の指揮を執っているらしい、白い服を着た若い優男に問いかけた。

「まだ来るの? あと何百人来ようと、何千人来ようと、無駄だよ。僕がいる限り、ここは落ちない。君達が死ぬだけだ。ねえ、君達も馬鹿じゃないなら、さっさと上に報告しなよ。キャバッローネにボンゴレの雲の守護者が現れました、ってね……」

 精巧さに欠ける名ばかりの雲のリング、それと対を成して武具となる匣を手で弄びながら、静かな声音でさらりと言ってのける日本人の青年。
 三流品の武器を一流の腕で使いこなし、どれだけ強大な敵を相手にしても必ず勝利するという、ボンゴレの守護神。
 血の海の中、汗一つかかず、至って自然な体で佇む青年の姿に空恐ろしいものを感じたミルフィオーレが即座に兵を引いたことで、キャバッローネは急場を凌ぎ、束の間の平穏を取り戻した。
 拠点であり、最後の砦でもある屋敷を死守できた事で、ディーノも部下達もあからさまに安堵した表情を見せていた。
 同時に、ミルフィオーレの攻撃に乗じてキャバッローネに抗争を仕掛けてきていた中小マフィアとの競り合いもなんとか膠着状態にまで縺れ込ませ、形勢不利を立て直す時間も出来た。
 それでもキャバッローネには全てが不利な状況には変わりなかったのだが。
 雲雀の出現が上層部に知らされたとなれば、ミルフィオーレ自体は暫く攻撃を仕掛けて来ないだろう。けれども、最早敵は彼らだけではない。
 四面楚歌状態に追い込まれたディーノ達には、張り詰めた緊張を解く暇はなかった。
 安心して過ごしていられるのも数日だけだ。
 雲雀が屋敷を去ったと知れば、ミルフィオーレは再び攻撃を仕掛けてくるに違いない。
 この先何度もこれまでと同様の攻めを受ければ、さしものキャバッローネも耐え切れずに崩落してしまうだろう。
 つい先刻迄、誰の脳裏にも敗北の文字が浮かんでは消える、それほどの状態だったのだから、暗い未来は想像に難くなかった。
 
 

「いや~、マジで助かったぜ、恭弥! やっぱ持つべきものは生徒だよな~! つーかお前、ホント強くなったよあ。日本じゃこういう時、“向かう所敵無し”って言うんだったか?」

 豪奢な装飾品が並べられた客間、上質な生地で誂えられたソファに腰掛けて、雲雀は溜息を吐きながら、無駄に明るく振舞って見せるかつての恩師を見詰めた。

「お世辞は結構。僕に助けられるなんて、貴方も随分と弱くなったね。あんな雑魚どもに手間取ってたなんて信じられない。僕より強い人間が沢山いた、少し前が懐かしいよ。貴方達が弱くなったのは、もう戦い方の問題じゃなくなっているね。歳は取りたくないものだな」

 出された日本茶に口をつけながら、雲雀は無遠慮に辛辣な台詞を投げ付ける。
 一瞬、ディーノは何か言い返そうかと考えたが、皮肉をいう時ばかりは饒舌な年下の青年には何を言っても勝てそうにないので止めておいた。
 それよりもまず、雲雀に伝えなければならない事がある、それを思い出し、跳ね馬との二つ名を持つ若きボスは声を弾ませ話し出す。
 少しの愚痴は、愛嬌だ。
 
「いや、でもな、聞いてくれよ。あいつらマジで卑怯なんだぜ? 幾らこっちが百戦錬磨のキレ者揃いって言っても、流石にあの人海戦術には押されちまうよ。あいつらは全員捨て駒扱いで送り込んで来てんのかもしんねーけどよ、俺は自分のファミリー大事だし、出来るだけ死なせたくねえんだよ。しかも、あいつら一般人にまで手ぇ出すんだぜ? 酷いと思わねえか? 俺は、自分のシマで暮らしてる一般人に迷惑掛けたくねえんだ。俺らがやってんのは、ならず者の勝手な喧嘩でしかねえもんな。普通に生きてる奴らを巻き込みたくねえんだ。だから、どうすれば皆を守れるのか、どうする事が一番良いのかって考えてたら、色々後手後手に廻っちまって…って、今となってはそれは言い訳か。それをさて置いても、もう俺、お前には勝てねーし、取り敢えず歳のコト言われると返す言葉がねえけどよ…。でも喜べ恭弥! リボーンから連絡があったんだ! 10年前から飛ばされてきたとかで、またチビの姿になっちまってるらしいんだが。とにかく、生きて、帰って来たんだ、この世界に!
 でな、リボーンがお前に逢いたがってるんだ。出来る限り早く日本に来てくれだと。あいつ昔も今も、本当にお前贔屓だよなあ」

 10年の間にすっかりボスの貫禄が身に着いたディーノだったが、彼もリボーンの話をする時には少年のような顔をする。
 目尻に濃く皺が刻まれ、元々人好きのする顔がいっそ柔和に崩れた。
 何時になっても、懐かしさに勝るものはないのだろう。
 ましてや先日、突然この世から消えてしまった家庭教師からの連絡だ、喜びもひとしおに違いない。
 彼が、リボーンが生きている。姿は変わっても、生きて帰ってきた。
 それは、そう。
 10年後の現在、呪いが解け成長したリボーンと恋仲であった雲雀にとっても最高の情報だった。

「…ふうん、赤ん坊が“来た”の。ご指名だって言うなら、逢いに行かないとね」

 雲雀は手の中で転がしていた自分専用の湯呑みをテーブルに戻すと、音も無く立ち上がる。
 逸る気持ちを抑えようとしても、身体が先に動き出してしまうらしい。
作品名:迷う事は許さない 作家名:東雲 尊