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迷う事は許さない

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 雲雀にしてみれば、つい先日逢ったキャバッローネのボスの方がまだ強いではないか、素直にそう思えた程だ。
 けれどもそんな、雲雀とっては暇潰しにもならない相手でも、14歳の子供達には手に負えない強敵だったのだろう。
 雷撃の所為で焼け焦げ、一部が煤と化した叢の中に転がる、ボンゴレの守護者2人の変わり果てた姿に、雲雀は隠す事もせず盛大な溜息を吐いた。

(……本当に弱い生き物だね。どうしようもない。この時代の彼らの方がどれ程マシだったのかが解るよ。どちらにしても小物だけど、彼らはまだ戦い方を覚えていたから、少しは使い物になっていた)

 猫に遊ばれる鼠のように嬲られ、傷付き倒れた14歳の山本武、獄寺隼人と、慌てて駆けつけてきたのだろう門外顧問チームの一人、そして先日凶弾に倒れたとされているボンゴレのボス ―――― 沢田綱吉は、この時代の雲雀にとって酷く矮小な生き物だった。
 入れ替わる前ならばともかく、今は中学生の身だからしょうがないと言えばそれまでだが、雲雀にとってはそれは問題ではなかった。
 大人になった彼らも、雲雀には一度として勝てた事がないのだから。
 10年後ですらその程度だというのに、10年前となればいっそ弱く、2人してこの有様だ。
 雲雀は柳眉を顰める。

(リングだけで良いんだろうに、本体共々入れ替えるなんて。計画の内だとしても、こればかりは悪手だね)

 この時点で、10年かけて漸く、まともに人間扱いされるようになっていた3人は、雲雀の中でまたもや「使えない草食動物の群れ」へと格下げされ、興味の対象外とされてしまったのだった。
 草壁がボンゴレリングの件で元アルコバレーノ、ラル・ミルチと話していたので、後の事は彼らが何とかするのだろうと考えた雲雀は、一人、幻で作られた灯篭の内側へと進み、久方ぶりに自身のアジトへ続く回廊へと足を踏み入れた。
 灰色基調の簡素な造りの廊下を歩き、エレベーターを使って地下へと降る。
 行き着く先にある「境目」 ―――――― それは、運命の扉でもあった。
 雲雀は深呼吸をしてから、壁に設置された指紋認証システムに手を翳し、ボンゴレの地下アジトへと続く扉を開く。
 初めて開かれた重厚な扉の先で、雲雀は誰よりも逢いたかった、一番逢いたかった人物と対面した。


「逢いたかったぞ、ヒバリ」
 
「僕もだ、赤ん坊」

 雲雀は少しばかり泣きそうな気分になったが、必死に堪え、努めて冷静を装った。
 感傷に浸るにはまだ早い。

 少しの時間を置いて、草壁と綱吉が負傷した2人を連れてやって来た。
 彼らに背負われた獄寺と山本がベッドに運ばれ、治療を受け始めたのを見届けると、雲雀は別室にて、リボーンにこれまでの簡単な経緯を聞き、今後についての話を始めたのだった。
 そして、その話の雲雀は成り行きから、14歳の「ボンゴレ十代目候補」の家庭教師を任される事となった。














 風情豊な和室と情緒溢れる日本庭園は、観る者を愉しませた。
 板張りの廊下に燈されている人工的な橙が、夕暮れの街並みを思い起こさせる。
 明るさこそ乏しいが、その場所は、至る所に只ならぬ雰囲気を漂わせていた。

 閑静な街の下に存在するとは思えない巨大なシェルター。
 ボンゴレファミリーが秘密裏に建造している地下アジトのすぐ近く(正確には、双方が繋がりを遮断しているだけで、建物は直結している)にある地下屋敷が、雲雀が経営、運営する財団の日本での活動拠点だった。

 和に拘って仕上げられた屋敷は、ボンゴレのアジト同様セキュリティも万全で、設備も並々ならぬものを備え、常に最新の状態で稼動している。
 天災や敵ファミリーの多少の襲撃にはビクともせず、余程の異常事態でも起こらない限り、この施設内で5年はゆうに生き延びる事が出来る。
 何より、これらの施設は存在自体を知られていない為、他のどの場所よりも安全に過ごせる隠れ家だった。
 雲雀の隠れ家は3年前、ボンゴレのものと同時期に建築が始まったが、彼らが造る物よりも規模が小さかった為、先に出来上がった。
 建造の際、リボーンの提案により、もしもの時の為の通用口が設置されたが、この3年間、一度も使われた事はなかった。
 理由は勿論「平和だったから」という一言に尽きる。
 けれども時を経て、扉は開いた。
 造るようにと命じたのと同じ人間の命によって。


(本当に不思議な事ばかりだ。彼には未来が視えていたのかな)


 当時を思い起こしながら、雲雀は急須に茶葉を入れ、湯を注ぐ。
 ちょうど蓋をした瞬間、僅かに廊下が軋む音が聴こえた。
 どうやら待ち人が来たようだった。

「恭さん、リボーンさんがいらっしゃいましたが」

「うん、通して」

 未だ薄らと少年の音色を残した声に反応し、す、と静かに襖が開く。

「ちゃおッス、ヒバリ」

「やあ、よく来たね、赤ん坊」

 足音も無く近付いてくる、スーツを着込んだ小さな赤子を、雲雀は険の無い眼差しで見詰めた。
 黒い和服を軽く着崩して座るヒバリの前に、少し厚めに造られた座布団が敷かれている。
 昔と変わらず、特別に誂えたスーツに身を包んだ赤ん坊は、迷う事無く、軽やかにそれに飛び乗った。
 20畳ほどの空間の中に必要最低限の和雑貨を飾り付けた、簡素な創りの部屋。
 仄かに漂う、白檀の香り。
 近代化した世の中で暮らす日本人が忘れかけている日本の姿が、其処には在った。
 広々とした部屋の中心に佇んでいた雲雀は、読みかけていた本を閉じ、改めて来客に向き合う。

「今日の修行も観てたが、ツナも大分打たれ強くなってきたな。お前のお陰だ、ヒバリ。助かってるぞ。ラルの指導にお前との実戦があれば、鬼に金棒だ。こっちの時代の獄寺も山本もいなくなっちまったし、ディーノはテメェんとこで手一杯らしいし、了平は連絡つかねーし、来たばっかの頃はどうしようかと思ってたからな」

「気にしなくていいよ。別に、大した事をしている訳じゃないからね。それに、彼らが役に立たないのは、こちらでも日常茶飯事だよ」

 他愛の無い会話を交わしながら急須に手を伸ばすと、雲雀は好い具合に蒸らしていた茶を淹れ、そっと差し出した。
 新鮮な茶葉が醸し出す淡い青い香りが、二人の鼻腔を擽る。
 甘めの緑茶を一口含んで喉を潤してから、雲雀は他の人間の相手をしている時とは別人のような穏やかさで、続きの言葉を紡いだ。

「……ねえ、赤ん坊。君は感謝してくれるけど、実際には沢田綱吉の修行はあまり成果が上がっていないんじゃないの? 門外顧問の人はよく指導していると思うけど、あれじゃあ何日あっても僕の相手にはならないよ。それに、所詮10日間での成長なんて、たかが知れている。この世界には君達はもう居ないんだから、生き延びたいなら、敵を倒したいなら、もっと劇的に強くなってくれないと困るよ。君達には本物の危機感っていうものも、多少必要なんじゃない?」
作品名:迷う事は許さない 作家名:東雲 尊