二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

HONEYsuckle

INDEX|10ページ/25ページ|

次のページ前のページ
 

デート1回目


 土に種を埋めて、来る日も来る日も大切に水をやり、肥料を買うために奔走し、どんな色の花が咲くか待ち焦がれても、決して芽が出ることのない土地に生きていくことと、同じなのだと思う。俺達がこれから一緒に過ごしていくというのは、そういうことなんだと思う。最後に残るものは後悔と虚しさだけだと知りながら、毎日でも何時でも、何度でも、あげられる水を全て、雨のように。


 約束を三つだけしていた。この関係を決して口外しないこと。二人きりのときはサッカーの話題を持ち出さないこと。そして別れた後の人生において、二度と互いを好きだとは口にせず、それぞれが幸せに生きていくということ。
 関係を秘密にするのは、当たり前だった。要するに不倫の仲なのだ。
「映画でも見る?」
「それよりまずは参考書選びに行くぞ」
「ええ…」
 サッカー抜きで付き合おうと言い出したのは円堂だった。共通の趣味を取り払って、無条件で分かり合える手段を無くして、それでも一緒にいたいという気持ちが変わらなかったら、いつか振り返って自分が本当に相手を好きだったか疑うことをしないで済むと、思ったのだ。
「なんだよ初デートなのにさっ」
「男同士で恋愛映画なんてさむすぎる」
「別にアクションとかで良いじゃん」
 色気がないと文句を言う円堂の頭に伝票を乗せて席を立つと、鬼道は会計のレジに向かって歩きながら背中で話した。
「また今度な」
 次の約束があるというのは心強かった。素直に嬉しかった。
「じゃあ映画の次はプラネタリウム行こうぜ、駅前に新しく出来たやつ」
「お前…絶対に途中で寝るだろ」
 三つ目の幸せになるという約束は、今更とやかく言うまでもない。それはただ互いのせめてもの願いだった。

 本屋を巡って、参考書と英単語帳を見繕って買い、それから後は何をするでもなく文房具売り場と小間物屋を覗いて、飽きた頃にふと、バッティングセンターに行こうという話になった。鬼道は途中で二度と振り返り、円堂は何度も曲がり角の向こうを覗いた。お互い人の視線に敏感だった。勘違いにびくついては、その度に顔を見合わせて笑った。そのうち罪悪感は消えていた。
「俺さ、はじめて鬼道の家に行った頃には多分、もう好きになってたと思うんだあ」
「俺はどうだかな。初めてゴール前に立つお前に魅せられてから、サッカー選手としての円堂守には惹かれていたが…」
 鬼道が金属音を響かせて硬球を打ち上げた。途切れた会話が空を飛んだように、ふと柔らかな弧を描く。
「まあ遅かれ早かれ好きになったんだ、同じことだろう」
「すげー、鬼道ホームランとれるんじゃねえ?」
「河川敷で一緒に練習しようとお前が言ったときには、気付き始めてはいたかもな」
「いや、俺その話はずかしくなってきたからやめない…?」
「お前が言い出したんだろう」
 バッティングセンターを選んだのは、騒がしさに乗じればこういう話が出来ると思ったからだった。喫茶店も本屋も静かすぎる。今度はボウリング場に行くのも良いかもしれないと円堂は思った。鬼道はカラオケやゲームセンターは嫌いだろうかと考える。賑やかな場所にたくさん行こう。思う存分話をしよう。胸が高鳴るのを覚えて、円堂は勢い良くバットを振った。球には当たったが、打ち上がらず地面を抉って跳ね返り、鬼道のように空には、まるで近付きはしなかった。
「俺、野球にがてなのかも…」
「まあサッカーに比べたら才能がある望みは薄いな」
 鬼道はなんでも出来るんだな、と言いかけた声は飲み込んだ。努力もしないでそんなことを考えるのは自分らしくない。
「よーし、俺がホームラン賞とったら鬼道は次のデートに青いマントして来いよ!」
「じゃあ俺が先にとったら円堂は次会うとき長いカツラと赤い服で変装してこい」
「へ…?なんで」
「堂々と、手を繋いで歩けるだろう」
 鬼道の打ち上げた球はホームランボードの間際をすり抜けネットの穴から場外へ消えた。円堂が言葉を失っている間にも、鬼道は背を向けたまま次々に硬球を空へと飛ばして、呆けてないで勝負しろ、と叫んだ。その声はバットの金属音に半ば掻き消されながら周囲に響く。

作品名:HONEYsuckle 作家名:あつき