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HONEYsuckle

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運命[0.001]


 転がしたサッカーボールはいつかは止まる。でも「なにもない」場所ではボールは永遠に進み続けると鬼道は言った。蹴り上げたボールも蹴り上げられたままずっと上へと進み続ける、と教えてくれた。鬼道が俺にくれたものはたくさんあって、教わったこともたくさんあって、それでもまだ、答えてくれていないことがある。
 会ったら聞きたいことがある。でも、多分俺達は、もう交わらないんだと思っていた。一緒にサッカーをしていれば忘れられる。汗をかけば考えないでいられる。翌日の練習や次の試合に思いを馳せていれば、こんな気持ちには向き合わなくて済む。
 でも俺達の間にはもう「なにもない」から、俺が蹴った気持ちは遠慮なく相手にぶつかるし、俺もちゃんと受け止められる自信がない。サッカーをしていない俺は臆病だ。そうして傷付けあうのが怖かった。だからもう会わない方が良い、もう関わらないでいようって、勝手にそう思って、俺は繋がりかけてたパスを放棄した。


 そんな別れから、何年も経っていた。

 冬は嫌いだった。そんなことを言えば多分誰もが、雪でも降ればサッカーが出来なくなるからだろうと思うに違いないと、円堂自身も分かっていた。でも本当の理由は違うのだ。人恋しくなるから、なんて言っても誰も信じないだろうけれど。そして恋しくなるのが特定の人物だなんて、想像もしないだろうけれど。
 白い息にさらして両手を擦り合わせた。分厚い手袋越しに吐いた空気の熱など伝わるわけもないが、まるでその虚しさを得るためのようにわざと。
 空は灰色だ。見上げて思い出すのは、恋しい人と見た夕日。まるで空のようだと自分が評した、男の瞳の、真っ直ぐな色彩。曖昧な表情。少し小さな手に、透き通るような額。触れれば何かが変わっただろうか。今は何処で何をして、何を見ているだろう。
 寒い日に思い出すのは、いつだって鬼道のことだった。
 中学の二年程を一緒に過ごして、あっさり鬼道は別の高校に進学した。まるで満足したみたいに円堂に握手まで求めて、決別のようなさよならを口にした。結局あの日のことは未だに夢のように思える。鬼道が婚約者がいると告げてきたあの日、本当に伝えたかった言葉は何だったのだろうと、すでに何万回も繰り返した疑問をまた持ち出して、円堂は寒空に白い息を吹き掛けた。答えなんて出ない。それは円堂の中にあるものではないからだ。でも本当は自分の中にも同じ答えがあることを、円堂は気付いていたのだ。とっくに。ただそれはもう、手遅れになった直後のことだった。
 雨が降りそうだった。傘は持っていない。きっと神様の気紛れなのだと円堂は思い、無表情で肩を竦めた。天気予報は晴れ後くもり。降水確率は20%。それでも雨は降る。
 ぽつりと一粒、円堂の頬を水が伝った。二粒目はすぐに訪れ、間隔が狭まっていくつも雨は降り注いだ。周囲は色とりどりの傘で埋まっていく。折り畳み傘の無骨な形が視界を埋めた。傘をさしていない人々の、焦ったような足取りに逆らって、円堂は一歩一歩、踏み締めるように足を進めた。
 雨は嫌いだった。サッカーが出来ないからだ。神様は意地悪でもないし、自然の摂理は自分を生かす。それでも雨は嫌だった。小さい頃からずっと、雨が大嫌いだった。
「…あ」
「すみません」
 ずぶ濡れの肩同士がぶつかった。

「鬼道」

作品名:HONEYsuckle 作家名:あつき