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君の名は

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甘苦い決意



 私の決意はダイヤモンドよりも固い、はずだ。
 ダイエットに関しては、決意なんてはっきり言ってマシュマロよりも柔らかな自覚はあるが、ことこの件に関してはそんなん比べもんになんないくらい固い。友達に「それさぁ、ストーカーの第一歩っつうより第三段階ぐらいを踏んでるよ」と呆れ混じりに言われようとも、クラスメイトに「いや、その愉快な思考回路は俺いっそ尊敬するわ」と爆笑された挙句涙を拭いながら言われようとも。
 私の決意は固いったら固い、のだ。
 見ているだけでいい。
 あの人にチョコレートを渡すなんてそんなことは、できん!無理!ダメ!
「そんな訳で、私はチョコレートを買いません」
 厳かな宣言に、友達はチラリと視線を向けて「へぇ」と生返事をした挙句、また物色に入った。友達甲斐ってなんだろう、と遠い目をしながら考える。友人が真剣な目で選ぶかわいらしいお菓子のすました表情を見ながら、早くも決意が揺らぐのが自分でも分かった。
 つうか、あたしが食いたいよ、こんなん。
 思わずじっとガラスケースの中身に魅入っていると、友達のからかうような声が耳に届く。
「買うのー?」
「かっ、かっ、買わないよ!」
 決意を固めた、というよりは強情な子供みたいな声を出す私に、友達は呆れたように肩をすくめて「あたし、もうちょいかかるかもしれないから上のカフェに先行っててもいいよ」と言った。思いがけずに優しげな声にグッと詰まる。
「うん、じゃあ、そうしようかなぁ」
 と必死で言って、逃げ出すようにその場を駆けていった私の後ろ姿を彼女がどう見たかは知らない。
 卑屈なことは分かっているのだ、とエスカレーターに向かいながら考える。「お祭りなんだし、軽い気持ちであげたら?」という友達の言葉に頷かないわけではない。他の女の子が私のような考え方をしていたら、私だってそう言うだろう。でもだがしかし。
 その考え方、無邪気さは、可愛い女の子の特権なんだよぉぉぉおお!!
 私の理性と本能、コンプレックスだらけの胸のうちはそう警鐘を鳴らす。
 そうして私はいつだって何にも出来ない。
 いやでもしかし、見ているだけでも全然充実してるよあたしの青春は、と甘いコーヒーを注文しながら考え直す。
 だって、だって。
 私は、あの人に振られたら、めちゃくちゃショックだ。
 いや付き合えるなんてそんな石油王にプロポーズされるくらいの奇跡を想像しているわけでは無いんだけど、むしろ夢に見ることすらおこがましいって感じなんだけど、でもしょうがないじゃん夢見ちゃうんだもん。しょうがないじゃん。ずっと、惹かれていたのだから。でもだからこそそんな奇跡は起こらないということは熟知していて(多分あの人は普通に面食いだ)それでもやっぱり見ていたくって、でも振られたらそんなこともできなくなるし、残り半分を切った高校生活は出来るだけ無事に乗り切りたいし、どうしたってあの人には迷惑をかけたくないし、つか迷惑そうな素振りを取られたら今すぐ荒川にダイブだ誓っていい。いやそれはともあれ結局のところ見ているだけでも結構幸せっていうか。
 眩しいのだ。そして勝手に手の届かないものとして遠くから眺めて満足している。
「一人で百面相するの止めてくれる?怖いから」
 ようやくやってきた友達の声に、私は頭を抱えていた手をはずして背筋を伸ばす。席についた彼女が置いた、チョコが入っているだろう紙袋を見ながらポツリと言う。
「私、バカだよね」
 彼女はパチクリと目を瞬かせて、苦笑めいた笑みを浮かべた。とても綺麗な。
「まぁ、バカな子ほど可愛いって言うし」
「それ、親目線だから。そして嬉しくないから」
「なんでー?褒めてんのにー」
 彼女は目を細めながらひとり言を装って言った。
「恋だねぇ」
 私はその装いに便乗して聴かないふりをする。だって、こんなものはきっと恋じゃない。
 私と河合くんが一番最近交わした言葉は三日前の「おはよう」だ。覚えてんのかよ、というツッコミは甘んじて受ける。会話(というか、挨拶)を交わしたのは朝練が終わって教室に向かう河合くんと、あくび交じりに登校してきてかち合ったとき。ちなみに、寝坊しなかったときの私は朝練風景をチラチラと、しかしじっとりと盗み見るのを欠かさない。めったにない状況に直面し、わたわたと動揺する私に、河合くんは爽やかな笑顔で「おはよう」と言った。
 それに対し、私の返答は「おっ……はよう!」だ。
変な間が入った。力もか。ちなみに一番最初の音は外れている。……泣きたい。
 恋とはもっと綺麗なもので、少なくともこんなに間抜けなものでは無いだろう。
 心の底から、そう思っているのに。
 昨日から今日にかけての自分の往生際の悪さに、我ながらウンザリしているところでクラスメイトから声をかけられた。
「どうすんの?」
「何が?」
 出来るだけ無表情をつくろって答える。島崎慎吾は苦笑を閃かせて私の前の席に腰を下ろした。ヒラリと差し出された掌に、仕方が無いので視線を上げる。
「何、コレは?」
「分かってるクセに」
 子供に言い聞かせるような口調にしみじみと腹を立てながら、掌に銀色の紙に包まれた小さな長方体を乗せる。パリパリと包み紙を開けて中身を口に放り入れた島崎は、「へぇ、チョコ味のキャラメルなんてあるんだ」と感心した口ぶりになる。そうなんです。あるんです。昨日の帰り、コンビニで見つけてしまい、三十分は悩んだ末にとうとう購入してしまったキャラメルを、私も自分の口に入れる。誤魔化しようのないチョコ味が口の中に広がる。誤魔化しようがなく、私は往生際が悪い。ため息をつく代わりに、前に座った人を見る。
「……島崎くんが、こういう行事に興味あるとは思わなかった」
 私の言葉に、島崎はイタズラっぽくうそぶく。
「ま、基本的に今日は女の子の為の日だとは思ってるけどね。でも、もらえりゃ嬉しいし、もらえなかったら残念、つうか悔しい。誰でもそうじゃねぇの?」
 義理でもね。そう言っときゃ絶対アイツは深読みしねぇよ。
 付け加えられた言葉があまりに優しく言われたので、胃がぐるぐると回る。ぐるぐる。ぐるぐる。胃も目も脳も何もかも回しながらギリギリの私は答える。
「……ごめん。怖い」
 勇気なんてない。出せない。切れない。捨てられない。
 独りよがりだと分かっていても、彼を見つめて抱き続けた思いは私にはとても大切なのだ。
 俯いてしまった私の頭を、呆れと仕方なさを半分づつ、そこに面白がる色をほんの少しだけ混ぜ、本当に、本当に少しの共感を閃かせた視線で島崎は見る。
「難儀な性格だね」
 その視線を真正面から受けて、私は思わず笑ってしまう。そして頷く。まったくだ。まったくだわ。
「それ、島崎くんに言われると染みるね」
 そう言うと、島崎はそれこそ言葉どおりの苦笑を浮かべた。廊下側からの「島崎ー、お客さーん」という呼びかけに、軽やかに腰を浮かせて去っていく制服の後ろ姿を見る。そしてその向こう側で、可愛らしいラッピングを困ったように受け取る広い背中をぼんやりと見た。あれで今日、何個目かなぁという不毛な考えと一緒に。
作品名:君の名は 作家名:フミ