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Call,Call,Call!

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 どこかへ行こうか、という提案が、まさか動物園という着地点を見出すとは思っていなかったので。有里は目をまあるくしてからつい、吹きだした。
 「嫌ならいいですよ」
 ふて腐れたように言う赤崎に、慌てて手を振る。
 「や、嫌じゃないよ!」
 否定してから、何か足りないような気がして首を捻る。
 「全然、いいですよ」
 ニヤリとしながら付け加えると、赤崎は呆れたように肩をすくめて、結局笑い出していた。有里はなぜかホッとして、改めて笑うことにする。
 「楽しみだね」
 本心なのだから、普通に言えばよかったのに。というか、普通に言うはずだったのに。なぜかそっと静かに沈んだ声が出て、自分自身が驚いた。揺れる不安が滲み出るような。予想外の出来事に目をパチクリさせる有里を見て、同じように驚いていた赤崎も途方に暮れた顔をしていた。その、口から、さっきと同じ台詞が出てくることだけは回避すべく、慌てて口を開く。
 「動物園って!」
 取り急ぎ出した声は勢いにだけは溢れていたので、思わず、といったように向かいにある口が閉じる。危なかったと内心冷や汗をかきつつ、浮かぶままに言葉を並べた。
 「わ、私そういえば、達海さんからお土産もらったことある。小さい頃」
 予測のつかないボールが流れたように、目を瞬かせる赤崎の前に、有里は思い出の中の飴を取り出す。
 「パンダの柄のね、こんなおっきな飴」
 食べるの、大変だったんだよ。身振り手振りと共に付け加えると、その頃の有里に向けるような顔で赤崎が目を細めた。それにつられるように有里もクスクスと肩を揺らす。無機質な事務所がほんのりと光った気がした。「アンタでも?」と言う口は、全くいつも通りの生意気さだったけれど。
 「パンダを見たかったからって。あの人、一人で行ったのよ。後藤さん、呆れてたもの」
 思い出はそれこそ飴のようにまあるい。「有里ちゃん、無理しなくていいよ」と心配そうに腰を屈めて、大きな飴を持て余す自分にかけられた後藤の声のように。取り出したものが意外に優しいものになっていたので、有里は少し驚いた。あの光景を、まさかこんな風に思い出すなんて。いつの間にか、間違い探しをするような目になっていた有里は、赤崎が躊躇いがちに口を開いたことになかなか気付けなかった。
 「……永田さんは」
 声をかけられても、距離が曖昧すぎていまいちピンと来ない。目の前の男の子とは仕事だけではなく、仕事になる前が微かに、本当に微かに被さっていて、今のように過去を取り出しているとたまに距離が揺れる。ここ最近では、特にだ。赤崎は、ただのクラブの男の子から、何か違うものへ変わろうとしている。二人でいるときの、目で、それを訴えてくる。有里はどうしていいのか、いまいちピンと来ていないままだ。踏み込むのは、まだ恐ろしい気がしたままでいる。あぁ、ねぇ前から、そんな呼び方だったっけ?
 「監督のこと、好きですよね」
 流れる疑問にぼんやりと首を傾げていた有里は、赤崎の断定にギョッとしてしまう。
 「なっ……にを言うのかしらこの子は!」
 「どうなんですかそのおばちゃん口調は……」
 ガックリと項垂れた赤崎だったが、再び上げた目で有里はどうしても、答えざるを得なくなる。それくらい、真剣な目だった。揺れる、揺れる自分が悔しくなる。
 「……だって、ETUなんだもん」
 それだけだよ、と呟く自分の声が、本当に子供みたいで嫌になる。あの頃と今が、全く変わっていないようではないか。けれど違う。違うのに。微かに唇を尖らせた有里を見て、赤崎は「ふぅん」と言った。そこに込められてもどかしさの中身は、有里にはよく見えない。しかし、赤崎にとっては、ETUは変わったのだなとだけは、分かった。ETU、で思い浮かべるものは、赤崎の場合は自分たちなのだろう。今、自分たちが変えようとしているものに、なっているのだ、多分。
 私、私は、どうなんだろう?何かが変わっているのに。それだけは分かっているのに。
 そういう意味じゃないよって、何で、言えないの。
 「密談中?」
 「ぎゃー!」
 有里は突然かけられた声に、赤崎はそんな有里の大声に驚いて、ビクリと体を跳ねさせる。振り返れば、達海もまた驚いたように目を瞬かせていた。しかしすぐに気を取り直したかのようにニヤリと笑う。有里は思わずたじろいだが、赤崎はまったく気にした様子もなく、まるで興味が無さそうに、指摘する。
 「その歳でそんなん食って、よく胃がもたれませんよね」
 指差したのは、達海の手の中にある袋菓子だ。呆れたような赤崎の声に、答えるものは平然としている。
「イギリスで鍛えた俺の腹をなめるな」
そうしてポテコをヒョイヒョイと口の中に放り込む。赤崎は肩をすくめると、有里と達海、二人に頭を下げて事務所から出て行った。
「いいの?」
閉まった扉を、なぜかじっと見つめていた有里は、達海の声にハッとする。視線の先で、達海は確かに面白がっているくせに、少しだけ、よく見れば分かってしまうほどの心配、なんて似合わないものをひらめかしている。ビックリするほど似合わない。しみじみ思って有里は言う。
「……いいの」
我ながら、置いていかれた子供のような声だ。あぁ、本当に嫌になる。ムッと唇を尖らせた有里に、子供のような大人代表は、苦笑じみた笑みを浮かべて、先達らしい言葉を投げた。
「大人になっても、欲しいもんは欲しいって言っていいんだぜ?」
お菓子を食べながら言う台詞ではないような気がする。そろそろと視線を上げた、有里の表情にそれを見抜いたのだろう、達海は小さく眉を上げる。しかし気にした様子も無く、あまつさえ「いる?」と聞いてきた。有里は静かに首を振る。ボリボリと、噛み砕く音が響く。
「GMを見習えよ。欲しいっつって、なぁ?」
のんきな口調で、辛辣なことを、優しいような目で言う。有里はゆっくりと笑って、どうしようもなくまた閉まったドアを見つめた。
作品名:Call,Call,Call! 作家名:フミ