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琴咲@ついった
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けもの道

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 ぐいぐいと強い力で家の中に引きずり込まれて、予想通りすぐさまベッドに寝かしつけられた。部屋を満たす薔薇の香りに少しだけほっとする。
「しんっじらんない!まさか人の世話になるなんて、仙蔵がそんなに軽率だなんて思わなかった!」
 伊作はすっかりご立腹のようで、先程から動作も言葉も荒っぽい。瞼を閉じていてもドタバタと騒々しい物音が聞こえてくる。
「うるさい、アレはふ……んぅっ、」
 不可抗力だと続けようとしたが、伊作の唇で遮られた。これも不可抗力だ。
 一族の血を引いている伊作は、吸血鬼としての能力が高い。私達吸血鬼は人間にとっての食事を人の血か薔薇で賄わなければならない。どちらかの補給を怠れば動けなくなる。しかし生憎私は一族の血を引いている伊作から血をもらったがうまく適合せず、血が苦手だし身体に蓄えられるエネルギー量も少ない。その結果が今回のような有り様だ。一方伊作は相手を吸血鬼にすることなく血を頂戴する技を身につけているし、身体に蓄えられるエネルギー量も多い。吸血鬼間では接触することによってそのエネルギーを分け与えられる。それで伊作は手っ取り早いからといって、たまにこんな荒っぽい手段を用いる。
 先程までは全く力が入らなかった指先が次第に感覚を取り戻していく。覆い被さる伊作の身体を突っぱねられるくらい力が戻ったら、それが終了の合図。動かせるようになった指で唇をぐいと拭うことも忘れない。
「だから僕は外に出ない方がいいって言ってあげたのに。出ていったきり長いこと戻って来ないから、僕がどれだけ心配したことか!」
「……悪かった」
 心優しいこいつのことだから、恐らく本当に心配したのだろう。心配しているだろうことは容易に想像出来た。だからこそこっそり何もなかったかのように戻りたかったのだが、しくじった。
「しかも傷まで作って帰ってくるし。ほら、手の平見せて」
「別にいい。どうせすぐに塞がる」
「全然よくない。例えどんなに早く塞がろうが怪我は怪我なんだから。見せて」
 伊作は怪我に関しては妥協という事を知らない。もう血も止まっていたが、仕方なく薔薇を握りしめた手の平を差し出す。
「……また派手に握ったね。血に酔うくせに、自分の身体はないがしろにするんだから」
 手の平を観察してそう述べたかと思えば、血が流れた跡をざらついた舌で舐められた。傷を抉られたわけではないけれど、直接身体に伝わるような感覚に背筋が震える。
「っ、悪趣味め」
「うーん、否定はしないけど仙蔵には言われたくない言葉かなぁ」
「私の趣味がいいとは言わないが、おまえの方が絶対に悪い」
「そう?」
 笑いながら伊作は私の手の平に包帯を巻き付けていく。大袈裟すぎると主張しても、減るもんじゃないんだからといってきかない。
「あの人、いい人だったね」
 包帯を巻き終える直前に伊作は静かな声でそう述べた。なんと答えるのも何だか癪な気がして、黙って耳を傾ける。
「カッとなって冷たくあたっちゃったけど、悪かったかな」
「もうここに来ようとも思わないだろうし、逆に良かったんじゃないか」
「うん、まぁそうなんだけどさ」
「おまえと同じただのお節介な奴だったから気にするな」
 僅かに気を落とす伊作をどう励ましていいのか分からず、言葉が遠回しになってしまう。本当は私が謝るくらいすればいいのかもしれないのだが、上手く出来ない。それでも永年の付き合いである伊作は私の気持ちを汲み取ってくれてか、僅かに頬を緩めた。
「僕と同じで不運だったりした?」
「さぁ、それはどうだろうな。おまえほど運が悪いやつは珍しいから」
 私達に僅かでも関わってしまった時点で不運だろう。そうは思ったが、それを口に出せば伊作は気に病むだろうから、そっと心にしまっておく。もう会う事のない奴なんてどうでもよかった。私と伊作の互いにとって永久に存在するのは互いだけであり、他の全ては流れゆく景色に過ぎない。だから私は、伊作が小さくありがとうと言った、ただそれだけに十分満足したのだった。

作品名:けもの道 作家名:琴咲@ついった