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琴咲@ついった
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けもの道

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 先ほどまで明るかった空がくすんだ色になって、どこかで雷鳴が轟いている。こんな夕立になるなら散歩になど出るんじゃなかったと心底後悔した。昨日歩けなかった道を今日こそ行ってみようとしたのが間違いだった。ざぁざぁと降る生温い雨を全身に受けながら早足で家路を急ぐ。
 角を曲がったところで誰かにぶつかったが無視してそこを通りすぎようとしたところ、その前に腕を捉えられた。何をするんだと相手を見上げて、予想もしていなかった偶然に目を見開いた。
「おまえ……仙蔵といったか?この雨で傘もささずに帰る気か」
 腕を掴んだのは昨日助けられた学生だった。つい舌打ちしそうになったのをこらえて、首を縦にふる。とうとう私にも伊作の不運がうつったらしい。いや、むしろ不運なのは向こうの方かもしれない。2日も連続で私に関わってしまうなんて、不運を通り越して不幸にさえ思える。
「ここからおまえの家までは距離があるだろう。おれの家がすぐそこにあるから雨宿りしていけ。いくら夏だからって濡れたままでは風邪ひくぞ」
「いい。借りは作らない主義なんだ……昨日世話になった借りはいつか返す。じゃあ」
 言葉と共に捉えられた腕を振り払おうとしたが、私の力ではどうにも上手くいかなかった。目の前の男は腕を放すどころか持っていた傘を私の方へかざしている。
「別に貸しを作ってるつもりはない。いいからよっていけ、また昨日みたいにどこかで蹲られてもたまらん。大体おまえ身体が大分冷えてるし顔色が悪いぞ。昨日の今日のでうろちょろするなよ」
 私の身体が冷たいのは雨のせいじゃない。そう言ったところでこいつには私の強がりにしか聞こえないのだろう。やむを得ず口をつぐむ。途端、空が明るく光るとほぼ同時にガラガラと大きな音が響いた。反射的に身体が強ばる。
「……なんだ、雷がだめなのか?震えてるぞ。家は本当にすぐそこだからついてこい」
 もうこいつを振り払う気力は残っていなかった。腕をひっぱられるままに横に並んで歩いた。
「おまえ、どうしようもないほどのお節介だな」
「そうか?そういえば昨日の手はちゃんと手当てしたか?」
 掌を捉えられて、咄嗟に拳を握ろうとしたが遅かった。昨日血を流した手の傷はとっくに癒え、伊作にまかれた包帯も朝にとってしまった。今はもうただ白くなめらかな掌に戻っている。
「傷が、もう……?」
 顔をしかめて手を振り払う。昨日といい今日といいこいつには度々まずいところを見られている気がする。どうにも気まずい空気が流れそうになったが、幸いこいつの家に到着したらしい。
「狭いが一人暮らしだから好きにして構わん」
 中に入るとタオルを手渡された。部屋は畳で、片付いていたが本当に狭かった。普段の洋館が無駄に広いせいで、余計にそう感じるのかもしれない。
「……もしまたこの辺で具合が悪くなったらうちに来い。夏の間は大抵家にいると思う」
 もうこいつに会ってはいけない、本能がそう告げていたが、い草のにおいが何だかどうしようもなく懐かしくて返事もせずに俯くことしか出来なかった。

作品名:けもの道 作家名:琴咲@ついった