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バルカ機関報告書

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そして子供は、老婆の言うままに、週末に白い家に戻って来たアルビオンの区長に訊ねたものである。
「ねえ、ジュリアーノさん、屋根裏にある鉄の棒、あれ、なあに?」
子供は自分が知っていることは、当然ジュリアーノも知っていると信じて疑わない。だが問われる方は、子供が何を言っているのかすぐにはわからなかったようである。ジュリアーノはかつての乳母の補足を聞いて、やっと合点がいったようである。
「ジュリアーノ坊や、あなたの太鼓のでことですよ、きっと」
「ああ、あれか。あれはアニスさん、太鼓じゃないですよ。シンセドラムですよ」
「同じことじゃありませんか」
「まあ、そんなもんですけれどね。そうか、あれが、まだあったのか」
区長は、思案するような顔を作った。区長は子供が自分のシンセドラムに興味をもっているらしいことは既に見て取っている。
「久し振りに出してみるか。けれど、まだ動くかな」
青年はそう言うと、屋根裏に上がり、黒いドラムセットを階下に下ろし始める。ツカサもリサも興味津々である。
「こいつは、シンセドラムだ。ずっと昔、私が、まだ学生だった頃に使っていたものだ」
アルビオンの区長はそういうと、ドラムの電源を入れた。
「お、まだ動くみたいだ」
ジュリアーノは、同じ様に屋根裏にしまってあったスティックでドラムを軽く叩いた。シンバルの軽い響きが小さな白い家に響いた。
「さ、こいつを持って」
二本のスティックのうち一本をリサに、もう一方をツカサに手渡した。子供達は、ジュリアーノの動作を見て、何をどうすればどういう音がでるのかだいたい理解したようである。途端に、白い家の中が騒々しくなった。シンバル、ハイハット、スネアドラム。バスドラ。
「どうだい、面白いかい?」
子供達は狂ったようにスティックを振り回している。リズムもヘったくれもあったものではないが、とにかく真剣ではある。やがてリサが、ドラムへの興味を失って、スティックを投げ出した。
「もういい」
「リサお嬢ちゃんは、ドラムはあんまりお気に召さないか」
「だって、タンタン言ってるだけで、ぜんぜん歌にならないんだもん」
少女は抗議するようにしていった。どうやらリサはリズムを刻むよりもメロディを奏でることのほうが好きなようである。脇役ではなくて主役を演じたいということでもあるだろう。
「そうか。じゃあ、リサお嬢ちゃんには、何か別の楽器をあげよう。ピアノがいいかな」
ジュリアーノとリサの会話を尻目に、ツカサのほうは、熱心にドラムを叩き続けている。少年はシンセドラムが気に入ったようである。
「ジュリアーノさん、どうして、こんなもんがうちにあるの?」
リサが問うた。
「昔、バンドを組んでいたからさ」
「バンドって知ってる。歌を歌うんでしょ。あと、ギターをギャーンって弾くの。ホロで見たことある」
「お、物知りだな」
「どうして、ギターじゃなかったの?あたし、あっちのほうが格好良いと思う」
「くじで負けたからさ。ホントは、ギターが良かったんだけれど、メンバーと取り合いになってね。くじを引いたら私が負けたんだ。それでドラムになった」
「えー。自分が好きなのやれば良いのにー。駄目って言われても、そいつをぶっとばしちゃうの」
「随分と過激なお嬢ちゃんだな。ぶっとばすか」
「そう。ぶっとばすの。あと、キック」
少女はピョンピョン飛び跳ねて珍妙なダンスを踊った。
「私は、ドラムも結構好きだったんだよ」
「こんなタンタン言うのが?」
「そうさ」
「変なのー」
「ドラムを叩くということは、人の本心を知るということに通じているんだ。だからドラムを上手に叩けるようになるために練習するということは、人間の心を知るのにとても役立つ事なんだよ」
ジュリアーノは子供達に語りかけた。リサは、じっとジュリアーノのことを見あげている。
「ドラムは、叩いてみるまでどういう音がするのか判らない。それで、スティックで叩くと音がする。強く叩けば大きな音がでるし、弱く叩けば小さな音がする。あんまり叩きすぎると壊れてしまう」
ツカサは全く聞いていない。必死の形相でスティックを振るっている。
「人も同じだよ。ただし、人の場合はスティックではなくて言葉を使う。人は相手が何を感じているのか、見ただけでは判らない。だから言葉を使うんだ。相手が何を考え、何を思っているのか。相手が口に出して言わない心の奥の感情を知るために言葉を使う。いいかい、リサお嬢ちゃん。言葉というものは、自分の気持ちを相手に伝えるためにあるのだけれど、一方で、相手の気持ちを探るための道具でもあるんだよ。だから、その使い方をきちんと学ぶことはとても大切なことなんだ。ドラムをやっていると、そのことが少しだけ分かったような気になるんだよ」
リサは賢明な子供であった。少女はジュリアーノの言ったことの全てを理解したわけではなかったが、その一番重用な部分だけはきちんと把握していたようである。つまり言葉というものに、表現のための道具と、人の心を測る探索の道具という二つの側面があるということをである。そしてツカサのほうはといえば、アルビオン区長のせっかくの処世訓など気にもしないで真剣な顔でドラムを叩き続けるばかりなのである。

幕間。バルカ機関に関する様々な情報の断片

 Q バルカの十人委員会のメンバー全員の姓名のリスト
 エレナは震える指先でキィを叩いた。彼女の問いに画面の表示が切り替わった。
 ジュリアーノ・コレオーネ以下、秘密とされる委員会の名前が次々に現れる。エレナは思わず息を呑んでリストを見守る。バルカ外の者でこの秘密リストを見るのは、エレナがおそらく初めてであったろう。エレナは再びキィを叩いた。バルカの知識は山とあり、どこから手を着けて良いのかそれすら判らなかった。
 Q バルカに関連する企業一覧。および、その業務内容、業績。
 Q 新規殖民に関連する情報。
 Q 開発中の新型兵器一覧。
 エレナの問いかけにアルビオンの聖櫃は律義に一つ一つ答えていく。その中には、彼女が前から知りたいと思っていた、バルカ系の連合議員のネームリストもあった。リスト中には、エレナが良く知った大物政治家の名前も多数あった。
 ――何と言うことなの……。
作品名:バルカ機関報告書 作家名:黄支亮