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バルカ機関報告書

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と、悪魔の笑いを浮べて吠える始末であった。
――何も、そんなにひどく言わなくても良いのに。
ツカサは子供心にそう思ったが、姉のご機嫌を損ねるのを怖れて、言葉を口にすることができなかった。

兄姉達から引き離されたツカサ達は、アルビオン郊外に連れていかれることになった。ジュリアーノも一緒であった。
預かると言っても、ジュリアーノはバルカの十人委員会の委員長として多忙な毎日であったから、とても子供達の面倒を見る事などできない。そこで彼は、信頼のおける乳母を子供達にあてがったのである。
子供達の新しい養い親は、白いペンキで塗られた小さな家で子供達と、かつて彼女が育てた青年が来るのを待っていた。
――良い魔法使いのお婆さんだ。
ツカサは、小さな家の小さな老婆に対してそのような印象をもった。
「あらあら、ジュリアーノ坊や、それに、子供達も……」
「やれやれ、坊やですか。今年でもう二十六なんですがね」
ジュリアーノは、苦笑いであったが決して怒りはしなかった。
――ああ、この人はジュリアーノさんのことを知ってるんだ。
子供は大人達のやりとりに、そんなことを感じて緊張を解くことが出来た。
「顔を良く見せて。二人とも。あなたがリサちゃん。そしてあなたがツカサ君」
老婆は、そう言って子供達のほうに顔を近づけた。
「二人とも可愛い子ねぇ」
リサは、老婆に子供扱いされたのが大いに不満であったようだが、ツカサは、別にそのようには思わなかった。姉であるリサは大人びていて、独立独歩の精神に貫かれているから、誰かに保護をされることを屈辱と感じるのである。だが、ツカサのほうはそんなことは全く無い。恐ろしい外界のことは誰かに任せて、自分はぼんやりと白昼夢に耽っていたい、そんなタイプの子供である。だから包容力があって自分を守ってくれそうな人物に反撥するようなこともない。
「リサお嬢ちゃん、ツカサ君、この人はアニスさんと言うんだ。私を育ててくれた人だよ。そしてこれから君達の面倒を見てくれる」
ジュリアーノはそう紹介してくれた。
「よろしくね、リサちゃん、ツカサ君」
小さな老婆は微笑んで言った。
――お日様みたいなお婆さんだ。
ツカサは、それまでの養い手がろくでもない連中ばかりであったので、この新しい里親のことが大いに気に入った。何となく浮かない顔をしているリサも、新しい保育者を可ではなくとも、不可とは思っていないようであった。

アニス婆さんとの生活は、子供達にとって十分楽しいものであった。
子供達は、それまでに十分に愛情を得ていたとはいえなかったし、そのせいで人間性や社会性といった点で平均的は六才の子供に比べて大きく劣っていた。
アニス婆さんは、そんなツカサ達に十分な愛情をもって接してくれた。
おいしい食事をつくってくれ、話し相手になり、一緒に遊び。夜になるとお伽話をしてくれた。
自我が強いリサは、老婆の易しいお話しを聞かされることを、子供扱いされたと受け取ってそれほど喜ばなかった。
――あたしは赤ちゃんじゃないの!
リサは、ともすればアニス婆さんに反撥をした。
もっとも、反撥するのと心を動かすということは別次元の話である。『さまよえるオランダ人』の話を聞かされたリサは、それからしばらく、海の上を漂う運命を背負わされた悪どい船長の憂鬱な顔に脅えることになった。
ツカサのほうはといえば、こちらの反応は、もっとストレートであった。老婆の話を喜んで素直に聞く分だけ、受けとるものも大きいのである。面白い話を聞けば笑うし、哀しい話を聞けば大粒の涙をこぼす。恐ろしい話を聞けば、それこそ震え上がって脅える。
――恐いよー。
寝る前に聞かされた怪奇談の恐怖がぶり返して、泣きながらアニス婆さんの布団に緊急避難をするということが、ツカサにはしばしばあった。一方、姉のリサは、どんなに恐ろしい話を聞いても歯を食いしばって、ツカサがネをあげるまで我慢するのである。弟が泣き出して、そこではじめて動きだす。
――ツカサが泣くから、それで、アニス婆さんのところに一人でいけないと言うから、ついて来てやったんだ。
自分もアニス婆さんのところに逃げ込みたいのはやまやまなのだが、向こう気が強く、プライドの高い少女はそれができない。スタイリストであるとも言える。スタイリストだからツカサのように恥も外聞も無く泣き喚くようなことなどできない。そして、アニス婆さんのほうはといえば、素直なツカサを愛していたし、勝ち気で毅然とした姉のリサも愛していたから、二人を一緒に自分のベッドに入れて、子供達が寝付くまで、子供達の額を軽く叩き続けるのである。
――こうすると、悪い夢を見せる悪魔が耳から出て行くんだよ。
子供達は、自分の耳から悪魔が出て行くところをついに見る事はなかったが、それでもアニス婆さんのベッドでは、恐ろしい夢を見ることはなかった。

アニス婆さんの白い家には屋根裏があった。そして、そこには様々な物が大事にしまってあった。本や古い家具。衣服。ツカサは、探検と称して、この屋根裏に上がる事があった。書籍は難しい専門書が多く、ツカサには手におえない代物もあったが、なかには奇麗な図版が載っている歴史の本や、科学の本もあり、これらは子供にとって大いに楽しめるものであった。また、古い家具には、恐らく子供のであろう落書きがあったり、家具の中に、古い玩具などが入っていたりして、これまた子供にとって最高の遊び道具となったものである。そういった過去の遺物に混じり、屋根裏には使用用途が全く判らない物体があった。それは、金属の棒とプラスチックの板をつなげた何とも奇態なモノであった。大きさはツカサの身体よりも遥かに大きく、子供にはとても動かすことの出来ぬ重量をもつ物体であった。
「いったい何だろう。これは」
ツカサは、それがなんであるか良く判らなかった。コンセントがついているところから見ると、どうやら電気の力で何かがどうにかなるということは判るのだが、それではも何がどうなるのかということになるとさっぱり判らない。手っ取り早いのは、電源を入れてみればいいのだが、あいにくと屋根裏には電気が通っていない。
「何なんだろう。これは」
子供は気になって仕方が無い。そこで彼はまず姉にそれが何であるかを訊ねてみた。
「ねえ、リサ、あれはいったいなんだろう。何に使うのかな」
弟の質問に対するリサの主張はこういうものであった。
「あれはゴミ。決ってるでしょう。ゴミ」
使われなくなったからゴミだというのは、あまりにも強引な説明ではないか。もちろんツカサは、姉の答えに、
――ああ、あれはゴミなんだ。
と、納得するわけがない。少年はそこで今度はアニス婆さんに訊ねた。
「ねえ、アニスおばあちゃん、屋根裏の黒いの、あれ、なあに?」
白髪の老婆は子供の問いに、笑って、こう答えた。
「今度、ジュリアーノ坊っちゃんが来た時に聞いてみなさい」
作品名:バルカ機関報告書 作家名:黄支亮