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バルカ機関報告書

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青年はエレナをからかっているようである。いや『からかっているよう』ではない。本当にからかっているのだ。そしてエレナは苛々を募らせた。
「……アルビオンの法王」
 エレナは相手の表情を見ながら言った。
 「アルビオンの法王。巷間、あなたをそのように言うむきがあるとか」
「アルビオンの法王ですか」
青年は面白そうに言った。
「私が、カソリックの信者でなくて良かったですよ。もしもそうだったらきっと今頃、神罰を怖れて昼寝もできなかったでしょう。ありがたいことです」
エレナは不満を顔に現した。一方、コレオーネの黒い瞳はひどく楽しそうであった。
「監査官殿、きっとあなたは私を買いかぶっておられるのですよ」
 やり込められてエレナは奥歯を噛んだ。残念だが彼女にはコレオーネと対峙するにはあまりにも未熟であった。ジュリアーノ・コレオーネは続ける。
「それに、真実は自分で見つけるから真実なのですよ」
「詭弁ですね」
「まあ、そうとも言います」
青年は否定しなかった。その代わりに笑っただけである。
「それよりも、今晩は一緒に夕食をどうです?あなたの言う真実を見つけることができるかもしれませんよ」
「そんなに簡単な真実が真実と呼べるでしょうか?」
 エレナはほとんど突っかかるようにして言った。
「複雑な真実なんてありませんよ。真実はいつも簡単なものです」
区長は微笑んだ。権謀術数の達人とは思われない本当に優しい笑顔であった。いや、そういう笑顔を作れるからこその達人なのだろう。悪人と判る悪人は、悪人としては小物であると言わざるを得ない。
「六時に迎えに行かせましょう」
エレナには区長の誘い断る理由は無く、結局はそういうことになってしまった。

魔法

住めば都というけれど、ツカサは自分が住んでいる施設のことが、どうにも気に食わなかった。嫌な薬品の匂いはするし、塀には有刺鉄線が張り巡らされているし、天に輝く太陽は妙に白っぽくて、見上げると目が痛かった。ツカサの面倒を見てくれるスタッフと呼ばれる人達はいつもぴりぴりしていて恐いぐらいだったし、十四人もいる兄弟達はすぐ上の姉であるリサを除いて、年の小さいツカサにことあるごとに意地悪をするのだ。
そして、ツカサが何よりも嫌なのが、ゲームと呼ばれる検査を受けさせられることであった。ゲームは、おかしな形をした機械を用いて行うのだが、これが実に奇態なものであった。ドーム状の全方位液晶画面に次々に現れる丸い光に、十六個の四角い光の枠を重ねるというものなのだが、その際に、ツカサは機械本体に触れる事を許されない。触れず触らずににいったいどうやって、機械を動かすのかツカサにはさっぱり判らなかったのだが、スタッフ達は、どうしてもそうしろとツカサに無理強いをする。そして、無理なものはやはり無理であり、不可能なものは不可能であって、スタッフ達の理論によれば絶対に動くはずの四角い枠は微動だにせず、ゲームは始まると三秒もしないうちに終わってしまう。結果を見守るスタッフ達は、惨澹たる結果にがっかりしたような顔をするので、少年は、自分が悪い事をしたような気分になってしまう。しかも、ゲームのあとには必ずと言って良いほど、
――脳波の同調効率が悪すぎる。担当は何をやっているんだ!
――問題はインターフェイスの設定であって、我々は我々の仕事をこなしている!
――ふざけるな、我々に責任を転嫁するのか、おまえらこそまともに仕事をしない無駄飯食いのくせしやがって!
と、スタッフ同士が激しいケンカを始めるのだ。これもツカサには苦痛であった。
そして、このケンカは必ず最後にはツカサに矛先が向かって来るのである。
――これは我々が悪いのではなく、被験者が悪いのだ!
ツカサにとってショックなことに、十三人の兄姉達は、ツカサができないことをいとも簡単にこなすのである。ツカサの兄姉達は、何をどういうふうにしているのか、これもツカサにはさっぱり解らないのだが、液晶画面に映る丸い光を、四角い枠でとらえるというゲームを当たり前のようにやって見せるのだ。もちろん、その際に兄弟達は機械には触れることはない。目を閉じている者もいた。ゲームは千点満点であったが、八百点を切るものは一人としていなかった。ただツカサと、そのすぐ上の姉のリサだけが、何度やってもゼロ以外の点数をとることは無かったのである。
――いったいどうすれば八百点が取れるんだろう。
ツカサは子供心に、いろいろと考えてみたのだが、考えてもうまく行かない。
――ねぇ、教えてよ。
ツカサが兄達に懇願してコツを教えてもらおうしても、こちらもどうにも要領を得た答が帰ってこない。
――頭にイメージをするのさ。そうすればできる。
十三人の兄弟の話を総合すると、どうやらそのようなものになるらしいのだが、けれど、イメージをすると言っても何をイメージするのだ?だいたい、イメージしただけで物が動いたりするのだろうか?そんな馬鹿な話が許されるのか?
そして、事実、言われるままにツカサがイメージをしてみても、液晶上の光の枠はぴくりともしない。
いったい何がどうなっているのだろうか。
不可解なのは、兄達も同じであったらしい。
――なんで、こんな簡単なことができない?
そして、兄達と末の弟は、同じ結論に達したのである。
――オレ達は種族が違う。
もちろん、兄達が優れていて、劣っているのはツカサである。
後にツカサが大きくなって逆算して考えて見るのに、兄達のツカサへの意地悪がひどくなったのもこの頃であったようである。
優れた者と劣った者。施設では、スタッフも含めて全ての人にとっての価値基準は数値であり、人間性は二の次であった。
やがて、何度もやっても無理だということがスタッフ達にも分かったのだろうか。ツカサとリサだけは、レバーとボタンのついた金属の箱があてがわれるようになった。そのレバーを操作すれば確かにツカサにも液晶画面に現れる光の枠は動かす事が出来るようになったが、それはツカサでなくてもスタッフでも、それどころか実験用のチンパンジーでもできることであった。猿にすらできることに御利益などあるわけもない。しかも、ここまでハードルを低くしてもらにっておきながら、ツカサがスタッフ達の期待に応えることはなかった。さすがに零点を取るということはなくなったが、それでも三桁の得点を取るということはほとんど希であった。上の姉のリサが必死の努力で平均点を四百点にまで持って行ってからは、ツカサの落ちこぼれぶりが余計に目立つようになってしまった。ツカサの担当のスタッフ達は必死であり、本人もある程度の危機意識は持っていたが、事態は一向に好転しない。これは、恐らくツカサ本人の性向に拠るものだったのだろう。
――本当にぼーっとした子供だ。
スタッフが腹立ち紛れに叫ぶように、ツカサは何かをしながら、頭の中では別のことを考えている、そんな子供であった。
――空の雲は誰が造っているのだろう?
あるいは、
――お星様はいったい何個あるのだろう?
作品名:バルカ機関報告書 作家名:黄支亮