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バルカ機関報告書

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 「実の所、私は十人委員会の構成員ほど特務部の弾き出した計算結果を百パーセント信じてはいません。カオス理論の権威者達が算出した結果であっても近似値でしかないからです。どんなに正確であったとしても、百パーセントの精度はありえない。人間はどんなに賢くなっても運命を予測はできないのです」
 バルカの王は続ける。
 「けれど私は特務部の反乱が起こるだろうという一点に関してだけは異論はありません。何故かって?簡単です。私は実際に殖民星系の議員の何人から、これまでに数度に渡って反乱を起こした際の内通の打診を受けているからです。彼らはバルカを味方にするということが反乱の成功とイコールだということを知っているのです」
 コレオーネは語る。
 「もっとも、断っておきますが私達は別に連合で混乱が起こるほうが良いとは決して考えていないのですよ。そんなことは可能な限り阻止しなければならない。私達もまたハッピーでいたいのです。だから私達バルカは、これまでに内乱を未然に防止するための努力をしてきたのです。貴女はご存じ無いでしょうがね。けれど、うまく行きませんでした。運命の歯車を逆転させることが私達にはできなかったのです。もっと速くに連合の危機を知ることができていれば結果は違っていたかもしれません……。いや、結果は同じだったでしょう。バルカは強大ですが、それは個人に比べればです。二千億を越える人間のより良く生きたいという切なる願いの前には五十万ちょっとの組織ではどうすることもできないのです。とにかく私達には大河をせき止めることができなかった。できなかったのです。そこで私達は考え方を修正しました。ダムの決壊が起こるのであれば、それを人工的に起こして、最小限の被害で食い止められるように。つまり、内乱を計画的に起こすのです」
 「内乱を起こさせる!」
 それは騒乱予備罪ではないか。エレナは言葉を失ってしまった。相手がふざけているのであればまだ良い。バルカはそうするだけの実力を持っているのだ。
 「こちらの計算内で反乱が起こってくれれば、被害を最小限に食い止めることができます。不幸になる人の数も確実に少なくて済むでしょう」
 コレオーネは戦闘機を見上げた。尖塔の怪物は人間達の会話など知らぬ存ぜぬと言った具合に静かにドックの中に鎮座していた。
 「……私達の人為内乱のシナリオはバルカが殖民星代表をそそのかすことから始まります。某月某日のX日までに地球を脱出して殖民星の一つに結集しろと。おそらく、この結集する先はセシリアになると思いますが、とにかく、殖民星の代表はひとところに集まり、ここで、地球に対して、殖民星側の要求を記した議定書を作成します。作成と言っても、すでに原稿のひな型はでき上がっていますがね。何なら、後でコピーを差し上げましょう」
 「バルカが脚本家だったとは知りませんでした」
 エレナは怒りを覚えて言った。コレオーネは答える。
 「監督業も行いますがね。けれどそんなことはどうでも良いことです。人は正義を行うために生きているのではないのです。人は幸せになるために生きているのです」 バルカの王はそれまで見たことがないほど決然と宣言した。
 「殖民星側の要求を地球が呑めば事態は平和裡に解決しますが、決してそうはならないでしょう。権力の移譲には大変な摩擦と軋轢が生じるのです。とても一筋縄ではいきません。そして地球が殖民星の側の要求を蹴った時には、反乱が連合全土で起こることになります。地球を憎む殖民星の人々は扇動に簡単に乗るでしょう。地方の武器庫が襲われ、戦火は全星域規模に拡大するでしょう。そして、地球側は反乱の鎮圧に乗り出します。これには月軌道上に駐留している第一、第三、第五、第六艦隊が派遣されるはずです」
 世の中のためなどと言ってることは偉そうなことを語りながら、バルカは連合を構成する二つの派閥を巧みに戦わせる腹積もりなのだ。むろんどちらが勝ってバルカ本体が損失を被ることはあるまい。
 「地球選出の代議士は万が一にも自分達が負けるとは思っていないでしょう。けれど地球側は絶対に勝てません」
 「そういうシナリオだと。バルカが彼らのことを応援するからですね。その時に、この戦闘機を使うというわけですね」
 査察官は苛々とした口ぶりで言った。
 「いいえ。この張り子の虎は使いません」
 エレナは肩透かしを食ったような表情を作るとこう問題提起をした。
 「けれど、それでは殖民星には戦力が無いということではありませんか。地球は彼らから巧みに武器を取り上げていますから。武器も無い、頼みのバルカの援軍も無い、それでは反乱にならないでしょう」
 殖民星に対する地球の政策は巧妙であった。殖民星の人々は小火器から防空用の航空機までさまざまな兵器を持つことが許されていたが、全長にして一キロを越える航宙戦闘艦の主砲の破壊力を考えれば殖民星の武装は滑稽なぐらいに無力であった。だがバルカの王の考えは違っていた。
 「武器ならばありますよ。連合の艦隊を奪えばよろしい」
 コレオーネは簡単に言ったが、エレナはすぐにその意味する所がしばらく理解出来なかった。連合の艦隊を奪う?いったいどうやって?そしてバルカの王は淡々と解説をしてくれた。
 「連合の艦隊を作り上げたのは私達です。私達バルカです。細工をすることは難しいことではありません」
 青年は薄く笑うと鋼の竜を再び見上げた。
 「実は連合の艦艇の管制システムには、連合の軍人達が知らない間にちょっとした仕掛けが施されているのです。ある周波数の電波に乗せてあるキーワードを送ってやると、全てのシステムが正確に八時間の間停止するようにできているのです」
 エレナは鏡が手元に無いことを神に感謝した。真相を知らされたエレナの顔は二日酔いの翌日よりもさらにひどいものとなっていたからである。
 「その間に殖民星の反乱軍は容易に艦艇を奪取することができます。そして、数日後、味方として送り出した四個艦隊が敵として地球に帰ってくるのです」
 エレナはしばらく途方に暮れていたが、やがて自らを奮い立たせるようにしてこう聞いた。
 「それで、どうなるのですか?地球はどうなるのですか?」
 「どうもなりませんよ。地球は殖民星の言い分に譲歩をするでしょう。地球の議員連中が頑迷であれば、都市の一つも軌道からの爆撃で吹き飛ぶでしょう。けれど、そのようなことはありません。何故ならば私達がそのよう蛮行を望まないからです。結局、地球は殖民星の意見を呑まざるを得ないのです。何故ならば彼らはすでに多数派ではないのですから」
 バルカの王は静かに言った。
 「それで……地球の側が要求を呑んだ後はどうなるのですか?」
 エレナはさらに訊ねた。コレオーネは言葉を選ぶようにして続ける。
 「……昨日の主人と奴隷が入れ替わるということはないでしょう。殖民星の地位が向上したとしても、連合の中でもっとも多くの人口を持っているのは太陽系なのですから。連合憲章が書き替えられ、地球は自分たちが投資したり貸し付けた財産をあきらめなければならないでしょう」
作品名:バルカ機関報告書 作家名:黄支亮