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バルカ機関報告書

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 「殖民星の反乱軍が譲歩した地球をかさにかかって攻撃するという可能性はないのですか?これを圧政者を永遠に根絶やしにする良い機会と考えるということは無いでしょうか?」
 エレナは不安を感じて聞いた。バルカの王は笑って答える。
 「可能性としては薄いでしょうが、その可能性は皆無ではありませんね」
 「もしも、そうなったらどうするおつもりなのですか?」
 エレナの詰問にバルカの王はそこでようやく種明かしをしてくれた。
 「R―GLAYというものはその時の担保なのです。もしも殖民星の反地球連合が暴走を始めてしまったら、その時は彼らの艦隊をこの機体で殲滅します」
 やれやれ。エレナは首を振った。人々はバルカのシナリオに忠実に踊らされ、殺し合うように定められているのだ!しかも、バルカは人間が愚かな行いをした時のペナルティまでも用意しているときた。
 「もっとも、そのようなことは起こらないでしょう。人間は愚かですが、マスコミの人間が眉間に皺をよせて嘆くほどには愚かではないのです。だから彼らは必ずどこかで交渉を持とうとするはずです。仲介になるべき組織がここには存在していますしね。そして交渉が持たれるとすれば、それはルナベースになるでしょう」
 何と言う手回しの良さだろうか。バルカは講和の場まで用意しているらしい。エレナは機嫌を損ねたように下唇を噛んでいたがやがてこう言った。
 「……人々を思いのままに操って、随分と面白い事でしょうね。そうやってバルカは結局、発言力を増していくのですね」
 エレナは踊らされているダンサーの一人として、踊らせる監督を名指しで非難した。エレナは歴史という劇場でそれこそ狂ったネズミのように踊らされているのだ。しかもそれに対する報酬は皆無である。このような劣悪な待遇を嫌にならないほうがおかしいのではないか。
 「そうやって世界を好きなように操って、自分は舞台のそでから私達を傍観している。さぞや良い気分でしょう」
 エレナの言葉は厳しかった。そんな査察官にコレオーネは笑顔で答えた。
 「さて、どうでしょうか。うまく行っても確実に数百人の死者が出るし、最悪の場合は、連合の人口の半分が永遠に失われるのですよ。薄氷を踏む思いとはこのことです」
 「……」
 「査察官殿、私は貴女が思うよりもなお狡猾ですが、それでも百パーセントの悪にはなりきれないのです。私はバルカのことを考えますし、このアルビオンの人々のことを考えます。それは私の責務ですから。この星に住む人々のことも、そして連合に暮らす人々のことを考えているのです。おそらく連合の議員よりもずっとこの連合のことを考えているはずです」
 「……」
 「バルカが、今日の危機の存在を察知したのは今から三十年以上も昔の事だったのです。それからバルカはこの危機のために何十年もかけて努力してきたのです。その努力は多分に自己の利益を守るためですが、同時に相当の部分、人類全体の利益を守るための努力であったのです。何故ならば両者の利益は多くの部分で重なっているからです」
 コレオーネは続ける。
 「確かにバルカの本質は善ではありません。それは認めます。けれどそれだからといってバルカが悪だというわけではないのです。それに貴女は私達が人々を操っているとおっしゃられたが、それは完全に過大評価です。私達は人々を扇動しますが、けれど、扇動するには下地が必要なのです。湿った草原には火はつかないし、望んでもいない人間をパラダイスに連れていくことはできないのです。たった五十万の人間がいくらあがいてみても数千億の人間を引きずっていくことは不可能です。あまりにも数が違い過ぎるのですから。社会とは言ってみれば山の頂から転がり落ちてくる巨大な鉄の玉なのです。これに小さな蟻が下手に近づけば潰されて死んでしまうのがおちです。蟻にできることはせいぜい鉄の玉の行く道を予期して、これの先回りをして穴を掘ったり、倒木で道を塞いだりすることだけです」
 青年は言った。
 「どんな権力者であってもできないことはあるのです。何故ならば彼は人間だから。どんなに強力な権力を持った人物であってもです」
 「おっしゃる意味は判りました。けれど、もし仮にそうだったとしても、全人類の明日を貴方達バルカが勝手に定める根拠にはならないはずです」
 エレナは言った。連合のことは連合の人々が考えなければならないはずだ。バルカが勝手に勝ち組と負け組を決定するいわれはない。
 「その通りです。けれど今は他に方法がありません」
 「方法ならば、連合の政府の関係者と協議をして、それから決めれば良いことです。連合の議員は市民の代表者なのですよ」
 エレナの発言にコレオーネは苦く笑った。
 「そのような方法が本当に事態を打開すると思っているのですか?議論は大事ですがそれは議論を行う人物が優れた見識を持っているという前提があります。連合政府の議員にそのような優れた見識がありますか?自分の見てきた事をもう一度思い出してください」
 エレナは返す言葉が見当たらなかった。議員の中には優れた人物もいたが、それは少数派であった。全体の一割程度だろう。あとの三割が完全に腐っていて、残りはレアに、つまり中途半端に堕落している。
 「協議をするとか議論をするいうのは言葉の響きは優しくて良いことです。けれど、それは結局の所、責任の所在を曖昧にするということに他なりません。時間がかかり過ぎるというマイナスもある。だからと言って、私は独裁こそが素晴らしいと言うつもりはありませんがね。要するに議論では人間の憎しみや怒りを解決することはできないのです。そして、どんな場合でもそうですが危機に際しては、危機に気がついたものが事にあたるのが筋なのです」
 ジュリアーノ・コレオーネは静かに言った。そして、エレナはこう返した。
 「私が連合政府に貴方の今の話をぶちまける可能性があることについてはどのように思われますか?」
 エレナが連合議会でバルカの陰謀を暴露することができれば、事態は今とは違ったほうに流れ出すのでないか?エレナはそのようなことを疑った。エレナがバルカの叛意を連合議会に報告すれば、連合も某かの策を打ってくるだろう。だが、コレオーネは首を振った。
 「連合のために殉死するのですか?立派なことです。けれどそのようなことは意味の無いことですし、また貴女がそのようにすることもないでしょう。貴女の行動で今後十年以内の死亡者の桁が四桁も五桁も違ってくるのです。全ては貴女の行動です。貴女が他人の命をそこまで軽んじるとは思われません」
 エレナは黙り込んでしまった。彼女は正直なところ、数億単位の人を犠牲にしてまで自分の正義を貫く自信が無かった。彼女はシネマヴィジョンの主人公では無く、一介の役人でしかないのだ。上司のセクハラを弾劾するのとは訳が違うのだ。コレオーネは一言つけ加えた。
 「それでも意地を通そうというのであれば、戦乱が起こったときに最も苦しむのが子供であり女性であり老人であるということをどうか思い出しておいてください」
 バルカの王の脅迫は非常に強力であった。多分、他のどのような脅しよりもエレナの行動を規制をすることになったのではないか。
作品名:バルカ機関報告書 作家名:黄支亮