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バルカ機関報告書

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 「私には私の考えというものがあります。それについては貴女に語るつもりはありませんし、語らないからと言って貴女が不利益になることもありません。ただ、私が処刑を覚悟で出ていくことで内乱の期間が短くなるというのは確かなのです。最初の計画では、ある日、突然、急に殖民星の側が団結して唐突に反乱ののろしを上げるということになっていました。これは、これでバルカは危険な橋を渡らないで済むので、そういう面では良いプランなのです。けれど、この場合、どうしても大義という部分で反乱が弱くなってしまうのです。どんなに格好の良い言い方をしても彼らは利権がらみの戦いを戦ったというただそれだけのことでしかありません。けれど、反乱の前に圧政者が無実の人間を逮捕拘禁するという暴挙があれば、話は別です。殖民星の人々は圧政を強いる悪逆無道の政府と自由のために戦ったということになります」 「それで、敢て、自分を捕縛するように『圧政者』達に働きかけたのですね」
 エレナはようやく事態を呑み込んだ。バルカの王は反乱の契機として自分をわざと連合に逮捕拘禁させようというのである。バルカにさまざまな形で援助をして貰っている殖民地の側としては、かかる事態を看過することはできないだろう。バルカは恒星間の物流に大変な力を持っているから、バルカの動きが一時的にでも停止してしまうと殖民星としては大変困ったことになってしまうだろう。かくして大乱のためのお膳立ては揃ったのだ。しかし、それにしてもバルカの働きかけによって、バルカの王を逮捕してしまう連合の議員達とは返す返すも愚かな連中である。救いようのない無能である。彼らは、バルカが何を考えているのか知らないし、知らないままにただそのりように圧力をかけられるから行動をしているのだ。彼らにとって大事なのは献金の額だけであって、他のことは、自分の命運を含めた全てがどうでもいいことらしい。いや、エレナはそのように彼らを軽蔑することはできまい。彼女はただ知っているからそのように思えるのだ。議員達は、自分達のうち誰がバルカの献金を貰っていて、誰が貰っていないのかということを正確には把握していない。お互い、自分だけか良い思いをしていると勘違いしているのだ。そして勝手に疑心暗鬼に陥っている。だがエレナは知っている。バルカという組織の存在に公然と意義を唱える、反バルカキャンペーンの筆頭となる人物が実はバルカの子飼いであることや、バルカを名指しで非難する議員の非難の意味が単に献金をもっと多くしろというだけのことであるということを。彼らは大きな奔流の中で自分だけがうまく泳ぎきっている思っているが、実の所、彼らは自分も知らないうちに溺れ、意識を失いかけているのだ。
 「お話はだいたい判りました」
 エレナは生産性の無い慨嘆を打ち切ると訊ねた。彼女には聞くべきことがもう一つあったのだ。
 「よろしければもう一つ伺いたいことがあります。あなたが私をここに連れてきたのは何故ですか?危険を避けるためというのはもっともな理由ですが、アルビオンにいる限りどこでも危険は一緒です。それに、私は連合の人間なわけですから、連合の軍によって保護してもらって、ここを脱出することもできるのです」
 エレナは言った。コレオーネは笑った。
 「そう。連合は貴女を保護してくれます。だから、実際のところ、危険極まるアルビオンにあって貴女だけは危険ではないのです。貴女の四方五メートルにある限りは、銃弾は飛んできません。貴女は言ってみれば鉛玉に効果てきめんのお札みたいなものですよ。だから貴女をここに呼びました。貴女がここにいる限り、この家が燃えて無くなるということはないでしょう」
 アルビオンの法王は種明かしをした。何のことはない。彼はエレナを弾丸除けにしようというのだ。エレナの身のことを案じたわけではないのだ。
 「そういうことですか……」
 エレナは利用されているのだが、それほど怒りを感じなかった。ドン・コレオーネの人徳というものなのだろうか。
 「貴女にはこの家の留守を頼みたいのです」
 バルカの王は言うと、居間の奥の部屋に視線をやった。エレナがつられるようにしてそちらに目を向けると、奥の台所のほうエレナのほうを不安そうに見ている二人の子供の姿があった。
 「あれは?お子さんですか?」
 エレナは怪訝な顔を作った。コレオーネは独身ではなかったのか?それとも隠し子か何かか?子供達は見たところ十三、四といってところだろうか。実子となると、コレオーネの十代後半の子供ということになるのか?あまり現実的な話ではなさそうだが……。
 「いいえ。私の一番優秀な部下ですよ」
 コレオーネは実に楽しそうであった。彼と子供達についてバルカの王が語ることはなかったが、査察官には青年が子供達のことを愛しているというただそれだけのことは理解できた。
 「リサお嬢ちゃん、ツカサ君、査察官殿に挨拶を」
 コレオーネの言葉に少女がまず最初に居間にやって来た。深い栗色をした髪の毛を持つ色白の美少女であった。
 「こんにちは……」
 少女も軍隊がやって来ていることは知っているらしい。顔色が悪く、不安をどうしても隠し切れない様子であった。彼女の影に隠れるようにしてやって来た少年のほうは恐怖でほとんど泣きそうになっていた。
 「査察官殿。子供達を御願いします。貴女がいれば、軍もそうそう無茶をしないでしょう。もっとも彼らがこの街で発砲することは無いでしょうがね。あくまでもこれは万一の時の担保ですよ」
 コレオーネはそう言うと、黒いジャケットを羽織った。それから子供達にこう言った。
 「ちょっと行ってくるよ。軍隊の人達は私とどうしても話がしたいらしいからね。でも心配する必要はないよ。何故ならば私は、彼らを黙らせる魔法を知っているからね。ま、見ていてごらん、久しぶりに魔法を使って見せてあげよう」
 青年は笑うと、小さな男の子の頭に手を触れ、少女の左右の頬に口づけをした。それから、
 「それじゃ行ってきます。一週間はかからないでしょう。週末までには帰ってきますよ」
 と、言って、それこそ出張にでも出かけるような素振りでもって白い家を出ていった。
 後にはエレナと子供達が残された。

 連合の軍がアルビオンを制圧するのに時間は懸からなかった。区は軍の侵攻直後からホロヴィジョンを用いて再三にわたって『緊急時の行動』という番組を放送し、区民に平静を呼びかけたこともあって人々の間に大きな混乱が起こると言うことも無かった。これはだいぶ後になってエレナが知ることになるのだが、この時の軍の包囲作戦での負傷者は、公式にも非公式にも降下作戦の際にアキレス腱を切った――それも、降下の際ではなく、降下を終え、パラシュートの処理をしている際に転んで負傷したものであった――頓馬な兵士がただ一人であった。軍は極めて整然とアルビオンを占拠しついに死傷者を出さなかったのである。アルビオンの区長は、庁舎にいるところを逮捕拘禁され、そのまま議会のあるオールゴウル市へと連行された。
 連合軍の参謀総長は、作戦の開始から八時間後に、
 ――連合軍の作戦の成功。
作品名:バルカ機関報告書 作家名:黄支亮