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バルカ機関報告書

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――一緒に遊びに行こうか。
と、誘いをかけてはくれるのだ。それをリサは、必ず、
――行かない。
と拒否する。半ば自分で蒔いたタネと言えるが、リサがジュリアーノの誘いを断るのにも、ある程度の理由はあった。
――ジュリアーノが可愛いのは、自分ではなくツカサなのだ。
 少女は、子供心にそのようなことを感じ取っていたからである。ジュリアーノはリサを嫌っているわけではない。リサも可愛がってくれるが、ツカサのことをより強く愛しているというだけのことである。
 ――ああ、同じにおいがする……。
 リサは、コレオーネの若き指導者と自分の弟の間になにがしかがあることを感じ取っていた。あるいはそれを絆と言い、同じ血とも言う。
 「ねえ、リサ、どうしたの?」
「うるさい!」
リサは弟を突き飛ばした。子供はガラスのコップを持ったまま尻餅をついた。少年は暴力のあまりの理不尽さに泣く事も忘れてぼんやりとしていた。その間に姉は走り去って行った。
「ツカサのチビ、馬鹿!」
遠くで罵る姉の姿を少年はぼんやりと見つめるばかりであった。

「ねえ、じりあーのさん」
子供は、海老入りの餃子を頬張りながら問うた。
「なんだい」
「これ、おいしいね」
子供は、はじめて食べる中華料理が気に入ったようである。
「僕の母の故郷の料理なんだよ」
ラス・カサス市の繁華街には、さまざまなレストランがあった。ツカサ達が入ったのは、そのような店の一つであった。
「コキョーって?」
「生まれたところで、それで、ずっと暮していたところのことさ」
「じゃあ、ボクのコキョウは施設なんだ」
「そういうことになるかな」
「ふーん」
子供は椅子の上から脚をぶらぶらさせながら肯いた。そして、問い掛ける側と応える側がここで入れ代わった。
「ツカサ君、施設での暮らしはどうだい?困ったことはあるかい?」
ジュリアーノは、ツカサと会うと必ずこの質問をするのだ。
「ううん。ないよ」
「兄貴達に意地悪されていないかい?スタッフは相変わらず怒ってるかい?」
「ううん、大丈夫」
ツカサは即答した。
ジュリアーノが来るようになってからというもの、人々のツカサへの対応は激変した。これまではほとんどモルモット扱いであったのに、今では第一級の賓客である。そういえば、スタッフも何人か、急に顔を見せなくなった者がいる。ツカサは、ゲームで悪い点数をとっても、怒鳴られるということはなくなったし、そもそもゲームをする回数が極端に減ったのである。兄達のツカサへの意地悪もゲームの回数と同じ様に減った。兄達の弟への優越感はただゲームの点数だけであったから、その優越感のもととなるタネの数が減れば、苛める回数も減る事になる。それに、子供達も自分達が意地悪をする相手が、どれほど『ヤバイ』相手であるかが徐々にではあるが判ってきたようである。
――ツカサを苛めるとサセンさせられるぞ。
子供達は左遷の意味は判らなかったようであるが、不本意な思いがどういうものかは知っていた。だから、そのようなことを口々に言い合って、年の小さな弟をはばかるようになった。
「意地悪もされなくなったし、スタッフも怒らない。絵本を見てても怒られないよ」
「そうか。そいつは結構」
ジュリアーノは笑った。
「でもね、じりあーのさん、困ったことがあるんだ……」
「一難去ってまた一難。迷いを越えるとまた迷う。人間なんてのはそんなもんだ。で、何が困ったんだい?」
「今度はリサが怒るんだ。それで、じりあーのさんがボクを騙す悪者だって言うんだよ。それでサーカスにボクを売るんだって」
「サーカスに売り飛ばすか」
青年はふんと肯いた。
「そんなことしないっていくら言っても駄目なんだよ」
「そうか。それは困ったな」
「リサが怒ると困るんだ。ボク」
「よし、それならば、我等がお姫様がたちどころに御機嫌を直す魔法を使うとしようか」
「ホント?」
子供は目を輝かせた。やはりコレオーネの御曹司は頼りになる。持つべき物は気前の良い金持ちの友人である。
「ああ。今日は、きっとリサもにこにこ笑って君を迎えてくれるだろう」
コレオーネの若者は笑って断言した。

そして、コレオーネの青年の言葉は間違いではなかったのである。
ツカサが施設に戻ると、リサは新調の紫色のワンピースと赤い靴を着けて御満悦であった。
「ねえ、これ、いいでしょう」
新しい服にリサは、大はしゃぎであるが、ツカサは、服飾には全く興味が無かった。
「これって?」
「服よ、服」
「どうしたの、それ?」
「言わない」
少女は意地悪な笑顔を浮べた。ツカサも聞かなかった。
――ああ、きっとじりあーのさんだ。
子供は聞かなくても分かったのである。権力という名前の魔法を使えば、子供に服を届ける事ぐらい造作も無い事だったろう。
「あんたは、施設のくれるイモな服でも着てなさい」
「……」
ツカサは、リサが羨ましいとは思わなかった。それよりも相手が何故、服ごときでそんなに喜んでいるのか、それが判らなかった。
――変だなぁ。
ツカサは、見てくれをあまり気にしない。泥の中で遊んでいれば、服も靴もすぐに汚れてしまうのだ。そんなものに何の価値がある?それよりも、ツカサはおいしいものを食べたり、いろいなものを見に行くほうがよほど価値があると思われたのだ。

 幕間 相手の失点による利得

 「嘘、通った!」
 エレナは思わず叫んで席を立った。
 それは本当に出し抜けで唐突なことであった。それまでどんなハッキングプログラムの攻撃も余裕で弾き返していた聖櫃の衛兵達が不意に盾をおろしてエレナの前に門を開いたのである。
 ――Ready.
アルビオン中央管制システムはエレナの検索を待っていた。
 「で、でもどうして……どうして?」
 監査官の声は上ずっている。実は、奇跡を起こした本人が、その奇跡に一番驚いていたのだ。
 査察官エレナ・ゴールドウィンはアルビオンの査察にあたって七十七種類のハッキングプログラムを持参してきていた。もちろんアークス内に存在するバルカの十人委員会のデータベースに侵入するためである。だが、彼女の用意していたプログラムの全てがアークスを防衛する防御プログラムの前に惨めな敗北を喫していた。もっともこれは当たり前のことであったかもしれない。エレナはハッキングの専門家ではなく法律が専門であったから、せっかくたくさん持ってきていたプログラムもその能力の一割も活用できなかったのだ。
 ゴルディオンの結び目。
作品名:バルカ機関報告書 作家名:黄支亮