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緊急指令!エドワード・エルリックを守れ!

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はっはっはっとさわやかに笑いながら掴んだままのエドワードの拳にロイは唇を寄せた。エドワードはすらすらと淀みなく告げられたロイのその台詞に目を見開いてふざけんなーっ!と怒鳴りかけようとしたがそれを制するように淡々とした声を出した存在があった。ホークアイだ。
「エドワード君とアルフォンス君のアパートを引き払って、家財道具および錬金術書など一式を大総統官邸に運ばせました。今日から同居可能です」
「あ、僕の部屋、兄さんと大総統の寝室の近くは嫌です。少なくとも真横の部屋と真下と真上以外でお願いします」
「ええ、わかっているわ。同じフロアの東側と西側の離れた部屋を手配したから」
「ありがとう、リザさん」
にっこりと二人は微笑みあった。
「じょおおおおおおだんじゃねえぞっ!何でオレが大総統官邸なんかで暮らさなきゃいけねえんだよっ!!」
しかも夫婦ってなんだよーーーーーーっと、エドワードは赤らめた顔を青ざめさせた。
「経費節約。時間も節約。物事は合理的にスピーディーに。軍属辞めたにーさんと違ってボク、忙しいんだよ?兄さんの護衛以外にも仕事あるんだからね」
目的を果たした後のエドワードは軍属も国家錬金術師も辞めた。いや、辞めざるを得なかった。現在のエドワードはと言えば自身の師匠と同じように市井の単なる錬金術師としての研究のみに明け暮れている。もともとは正式に軍部に入隊してロイの補佐を行う予定ではあったのだが……そのはずだったのだが、そして一時期は実際にそうしていたのだが、全く仕事にならなかったのだ。部下は揃いもそろってエドワードの指示をうっとりと拝聴したままトリップする。テロ撲滅!と現場に乗り出せば犯人サイドのテロ組織の面々すらエドワードを一目見たとたんぽかんと口を開けて、目をハートマークにしたままもれなく乱戦状態は勝手に一時停止する。それではとっとと一網打尽に捕まえてやればいい……と思うのだが、憲兵やエドワードの部下たちまでもがエドワードに目を奪われているので使い物にならない。仕方なしに錬金術でテロ組織の犯罪者をテキトーに足止めだけをした後、部下たちに蹴りを入れて「とっととさっさとあいつら連行しやがれーっ!」と怒鳴ってようやく何とかなる始末。エドワードの隠し撮り写真は軍部内に蔓延し、シャワールームで隠し撮りされたと思しき半裸の写真などは10万センズの高額商品となり、それを押収したところでその押収任務に従事した担当官がそれを私物として隠し持ち。それがバレて北の最果てへ更迭……というありさまで。これでは軍部に居てもロイの補佐どころかむしろ邪魔なだけであり、仕方なしに錬金術の研究者として引きこもりの日々だ。まあ引きこもったところで生活には困らない。国家錬金術師であった時に支給された給金はエドワードの銀行口座に潤沢に預金されたままであるし、仮に一文無しになったところでエドワードにバックにはロイやアルフォンスが付いているからして生活に困ることはない。違法ではあるが金の錬成をすることも可能である。まあそんなことをせずともあちらこちらからエドワード宛てに贈られてくるプレゼントの数々を質屋に持っていけば、それだけで簡単に生活費など作れそうで。こんな状態であることの頭を痛めたロイがエドワード専属護衛官になってくれないかと拝み倒してアルフォンスを軍に入隊させ、アルフォンスも二つ返事で承諾した。だが、護衛がメイン業務だとしても、その事後処理までをもしなければならず、アルフォンスの元には始末書は毎日のようにやってくる。それにサインをするだけでも一仕事だ。更にストーカーのしつこさにキレたエドワードが破壊した町の再建計画にとエドワードを守るために付随する業務はてんこもりだ。忙殺との文字通り忙しさのあまり死にそうなのだ。エドワード・ストーカーの面々が仮に半分にでも減ってくれれば仕事も楽になるんだけどな~と、まあそのためには面倒だからロイと結婚でもさせちゃえ☆と企むくらいさせてもらってもいいでしょう的な心理も咎めてはいけないのである。
「そうね。エドワード君が騒動を起こす度に大総統がエドワード君の元へ行ってしまうから議会は停止するし、書類の処理も滞るしというよりむしろ増える一方だし。あなたが軍属を辞めた今でも多大な迷惑を被っているのよ」
「それに兄さんと大総統、れっきとした恋人同士なんだから。別にいいじゃない一緒に暮らすくらいメリットはあってもデメリットはないよ。誰の懐が痛むわけでもないし。むしろボク達にとっては家賃払わなくていいからラッキーじゃないか」
「エド君が市街でストーカーに囲まれるたびに交通規制しなきゃいけない憲兵達の身にもなってくれないかしら。市民生活にまで支障が出ているの。いっそエドワード君には大総統官邸から一歩も外に出るなと、そうお願いしたい程よ?」
アルフォンスとホークアイ。その二人に口をはさむ隙もないままにあれこれと理屈をこねられれば、さしものエドワードも文句を言おうと開けた口をまたもや無駄にパクパクと酸欠の金魚のように開け閉めするくらいしかできないというわけで。
だが、自身の意思を主張するくらいはしてやろう。それが悪あがきでしかないとしても。エドワードはすううううううっと息を吸い込んで、あらん限りの大声を出してやった。
「大総統官邸に住むなんて冗談じゃねえ!オレは自分のアパートに帰るっ!引き込もれっつーんならそこでいいだろっ!!」
「にーさん大きな声出さないでよ煩いよ。……もうホークアイ少佐が僕らのアパート引き払ったから官邸以外に行くとこないよ」
もうこの話は終わったとばかりに涼しげな顔でアルフォンスはしれっと答える。
「じゃ、軍のホテルでも何でもっ!!」
「そんな危険なところに泊れば誰かに不法侵入されて押し倒されても知らないよ?大総統以外にヤられちゃってもボク助けないからね?」
助けないとは護衛官として職務怠慢だと文句の一つもつけたいところだが、兄としての立場からすると弟に助けを求めるのも何やら情けなく感じて。自力で何とでもできるとばかりにエドワードは反論を試みた。
「錬金術で壁も窓も全部開かないようにすればいいだろっ!!」
「ホテルに行くまでの道のりで兄さんのストーカー達に囲まれて輪姦されて、その犯人達を新大総統が燃やし殺して国内外でトップニュースなんてね~」
「おま……っなんつー単語をっ!」
「というわけで、大総統閣下。問答無用で兄さん連れて行ってください。ボクは仕事に戻ります」
あとはご自分で説得くらいしろとばかりにアルフォンスはロイに形だけの敬礼を送るとさっさと大総統執務室から出て行った。


「では閣下。出来るだけ派手に、可能であれば恋人同士らしい親密な雰囲気を作りながらエドワード君を官邸に持ち帰ってください。軍部でわざわざ広報活動をせずとも民間の新聞社なりマスコミなりがお二人の関係をトップニュースにでもしてくれるでしょう。軍の経費は1センズもかかりませんので」
よろしくと、ホークアイも心が籠ってなどいない敬礼をして。さっさと執務室から出て行った。残されたロイの部下もそれじゃあオレ達も仕事に……と戻りかけたところロイはその中の一人を指名した。